パロディ

□これまでも、これからも
1ページ/2ページ


「ねー、ママ。このみかん食べていい?」
「みかんたべるー」
「えっ」
「ん、おいし〜」
「おいし〜」
「ちょっと、……あぁ、もう」



今日は大切な人の大切な日。
そのお祝いの為に昨日から準備を重ねてきた。
今日は当番勤務明けで早く帰って来ると言っていたし、彼自身も今日という日楽しみにしていたのは隠すことなく明言されていた。
頼もしい、というには少し心許ないけれど、それでもお祝いの気持ちは強い二人と一緒に今朝から最後の仕上げにケーキのデコレーションをしていたのだが。

さすがに飽きて来てしまったようで、先程からつまみ食いの手が止まらない。
そろそろリビングで遊んでいてもらおうかな、なんて考えていたところに待ち人来たる。
玄関から聞こえてきた帰宅を告げる彼の声を聞いて、初めに桃が、次に青葉がキッチンを飛び出して玄関へと駆けて行った。

後で見せるとは言え、まだ完成していないケーキは一度冷蔵庫に入れて子ども達の後を追いかける。



「おかえり、藍」
「ただいま〜」
「パパ、もう少しでケーキできるよ!」
「あおくん、おてつだいした」
「お、青葉お手伝いしたのか〜。偉いな〜」
「桃もお手伝いしたよ!みかん切ったの!」
「くりーむぬりぬりした」
「んん〜、ちょー楽しみ〜」



桃と青葉のマシンガントークにそれぞれ答えながら手洗いうがいを済ませている藍。
何とも器用な男である。
そんなことを思っていたら何故か目の前に立ちはだかるように彼がいた。
しかも両手を広げて……おそらくこれはハグを求めている、はず。



「……藍?」
「ん?」
「何?」
「一つお兄さんになった藍ちゃんと初めてハグするのはやっぱり桜月かな、って」
「……お兄さんっていうかおじさん……」
「セイセイセイ、そこはお兄さんにしとこーぜ」
「パパ〜、桃もパパとぎゅーってしたい」
「んー?これはママが先〜」
「えー」
「ほら、桃ちゃんが待ってる〜」



ほらほら、と両腕をパタパタさせてハグ待ちの藍。
更に足元では桃と青葉が早く早くと急かしてくる。
これはもうどうにも逃げ場がない。
……仕方ない、覚悟決めるか。

一つ息を吐いてからそっと彼の腕の中へ。
何年経っても変わらない、この愛おしい温もり。



「藍、誕生日おめでとう」
「んふふ〜、ありがと」
「パパ、おめでとー!」
「おめでとー!」



痺れを切らした子ども達が藍の両足にしがみつくようにして抱きついて来た。
目の前には幸せそうに笑う彼。
それだけでこちらまで幸せな気持ちになるなんて。
どれもこれも彼のおかげ、なんてそんな恥ずかしい言葉は口にできないけれど。




「ん?」
「……何でもない。
ほら、私もう少し準備あるから。お昼までには完成させるから少し仮眠してきたら?」
「ぱぱ、ねんね?」
「んー……ちょっとだけ寝かしてもらおっかな。
昨日あんま仮眠取れてないんだよな〜」
「分かった。じゃあ……桃と青葉は、」
「青葉、お姉ちゃんとお絵描きしよ」
「お絵描きする〜」



藍を言葉を聞いた桃が青葉を上手く誘導して静かな遊びへとシフトチェンジしてくれた。
この勘の良さはきっと藍譲りだろう。
短い時間でも二人で遊んでくれるならば、料理の仕上げもできそう。
よし、もう一息頑張ろう。





































「パパ、お誕生日おめでとう〜!」
「おめでとー!」
「んふふ〜、ありがと!」
「これね、桃からのプレゼント!」
「ん〜?どれどれ……お、桃ちゃんパパのこと描いてくれたのか〜」
「あおくんもかいた!」



結局、子ども達の妨害を受けながらも昼には全ての料理が完成して、ダイニングテーブルについてゆっくりとグラスを合わせる。
そして乾杯もそこそこに子ども達それぞれからプレゼントが手渡される。
それを幸せそうに鼻の下を伸ばしながら受け取っている藍の姿。
本当に、この緩み切った顔を志摩さん達に見せてあげたいと思ったこともある。



「桜月?」
「あ、ごめん。ボーっとしてた」
「大丈夫?料理いっぱい作って疲れちゃった?」
「そういうんじゃないよ、大丈夫」
「ホントに〜?」
「ホントだって……ん?桃?青葉?」



顔を覗き込まれて額に手を当てられる。
あぁ、変なところで心配性なんだから。
何とも彼らしい、と思って笑ってしまう。
すると子ども達が急に黙り込んで静かになる。
どうしたというのだろうか。
不思議に思って子ども達の顔を藍と揃って見れば、どこで覚えたのか首を横に振りながら両手を軽く上げる桃。



「も、桃?」
「パパとママはラブラブね」
「ママ、あおくんとラブラブして〜」
「な、何言ってるのよ。別にラブラブなんかして……!」



慌てて娘からの言葉を訂正しようとすれば、額に当てられたままだった手が後頭部に回って彼の胸に頭を預ける形になる。
子ども達の前でこんなこと……!



「そうそう、ママとパパはラブラブなんだぞ〜」
「ちょ、ちょっと……藍!」
「桃もラブラブするー!」
「あおくんもー!」



雪崩れ込むようにして二人が抱きついてきた。
『よーし、みんなでラブラブ〜』と子ども達と私を一纏めにしてぎゅうぎゅうに抱き締める藍。
苦しい、と抗議しようと顔を上げれば、蕩けきった顔の藍と目が合って。
何だか毒気を抜かれて反論する気も失せてしまった。
それに満足した彼がまたいつもの笑い声を上げながら、回した腕に更に力を籠めてきた。
あぁ、何て幸せな空間なんだろう。

_
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ