パロディ

□これまでも、これからも
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「あっぶね〜、二人と一緒に寝るとこだった〜」
「寝ても良かったのに」
「そういう訳にはいかないです〜」



今日はお誕生日のパパと寝たい、という子ども達を両腕に抱えて三人で寝室に姿を消したのは一時間ほど前のこと。
昨日は当番勤務だったし一緒に寝ちゃったかな、なんて思っていたら大きなあくびをしながら寝室から出て来た彼と目が合った。
これは寝るところだった、というよりは半分寝落ちしていたのかもしれない。
普段ならそのまま眠ってしまってもおかしくないところ。
それを半ば無理やりに起きてきたのは誕生日マジックというところだろうか。



「起きてきたなら、プレゼント渡そうかな」
「え、プレゼントあんの?」
「そろそろ本格的にネタ切れ起こしてるけどね……」



彼との付き合いももう二十年近くになる。
定番のものは一通りプレゼントしたし、彼からリクエストを聞こうと思っても『桜月にリボン付けてくれればそれが一番〜』と冗談なのか本気なのか分からない返事が毎回返ってきて参考にならない。

身につけるもの、とは思うけれど衣類には相当なこだわりがある藍に下手なものは贈れない。
色々考えた結果、今年のプレゼントは、



「お、サングラス?」
「……これなら、いくつあってもいいかな、って」
「うわ……これ、ちょーカッコいい〜!
似合う?ねぇねぇ、似合う?」
「ん、似合ってる。カッコいい」



包装紙を開けて中身を取り出して早速かけている藍。
あぁ、どうしよう。
いくつになってもカッコいいと思ってしまう辺り、心底惚れ抜いてしまっている。
……そんなこと、今に始まったことではないけれど。

素直な感想を口にすれば、サングラスの奥で目を瞬かせた後でぐるりと室内に視線を巡らせている。



「ドッキリじゃないから」
「え、マジで?マジでカッコいいって言ってる?」
「……もう言わない」
「え〜、もう一回〜」
「言いません」



二人で飲むためのコーヒーか紅茶か、それとも今日は誕生日だからお酒を準備しようとソファから立ち上がってキッチンへ向かう。
背後からは『ちぇ〜』と残念そうな声。



「なんつって〜」
「っ、!」



油断した。
てっきりソファに座ったままでいると思ったら、不意に後ろから羽交い締めのように抱き締められる。
身動きが、取れない。



「ちょ、藍?」
「プレゼントありがと」
「……どういたしまして。
こちらこそ、今年もお祝いさせてくれてありがと」
「んふふ〜、どういたしまして〜」



ただお礼を言うだけなら、急に抱き締めるなんて心臓に悪いことは止めてほしい。
小さく溜め息を吐けば、くるりと腕の中で方向を変えられる。
そこには先程から表情が緩みっぱなしの藍が渡したばかりのサングラスをかけていて、その表情を見るだけでどうにも毒気を抜かれてしまう。



「俺さ?」
「ん?」
「一番欲しいプレゼントあるんだけど」
「え?」
「んふふ〜」



一番欲しいプレゼント。
こんな言い方、初めてされたかもしれない。
何だろう、と首を傾げていたら『目瞑って』とニコニコ……というよりニヤニヤしながらお願いされる。
突然の発言に疑問を抱きながらも彼の言うままに瞼を下ろす。
『ホントきゅるきゅる』と小さな呟きが聞こえたと思ったら、首に何か巻かれる感触。



「…………?」
「ん、オッケー。目、開けていいよ〜」
「………………なに、?」



再び目を開けて首元を見れば、先程渡したプレゼントに装飾として施してあったリボンの先端が胸元に見える。
彼の名前に似た、紺色のリボン。

これは……首に巻かれた、ということなのだろう。
状況は分かった、けれど理由が分からない。
そういう意味を込めて彼を見上げれば、不意に唇を重ねられた。



「藍、ちゃん……?」
「毎回言ってんじゃん?桜月にリボンつけて『プレゼントはわ・た・し』がいい、って」
「……それ、本気だったの?」
「え、冗談だと思ってた?」



藍ちゃんはいつでも本気〜、と笑って言う彼。
どうにも本気には思えない。
ただ、さっきから腰に回された腕の力が弱まることはなくて。
あながち嘘ではないのかもしれない。



「桜月?」
「え?」
「怒った?嫌だった?」
「………………」



無言を拒否と捉えたらしい彼が心配そうに顔を近づけてきた。
この表情も変わらないな、なんて思いながら背伸びをして、そっと彼の唇に自身のそれを一瞬重ねてすぐに離れれば、驚いた顔の彼と視線が絡む。



「桜月、?」
「別に怒ってないし、……そこまで嫌でもない、よ」
「、マージで?」



軽口を叩きながらもその瞳の奥に情欲の炎が灯ったのが分かる。
もう一度、今度は彼からの口づけ。
それを甘んじて受けた後で、次の行動は考えなくても分かる。
すっ、としゃがんだ藍がゆっくりと私を抱き上げる。



「じゃあ、プレゼントもらっちゃおっかな」
「…………別に、」
「ん?」
「改めてプレゼントしなくても、藍のだけどね」
「………………桜月、」
「え?」
「それ反則〜……今日手加減できなさそ」



言葉通り、手加減なしの夜になったのは言うまでもない。


*これまでも、これからも*
(ちょ、っと……これ、やだっ)
(んー?だってさっき嫌じゃないって言ったじゃーん?)
(そ、れはっ、そうだけどっ……リボンだけ残すって、悪趣味……!)
(んふふ〜、だって藍ちゃんおじさんだし〜)
((根にもってる……!))


fin..


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