パロディ

□衝動的
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俺の彼女は仕事ができる。
元々は総務でバリバリ仕事してて、桔梗隊長が4機捜を立ち上げる時に仕事の腕を買って引っ張って来たらしい。
4機捜だけじゃなくて、他の機捜からも信頼されてて色んな奴が桜月ちゃんのところに仕事を持ってくる。

そんで桜月ちゃんも『大丈夫ですよ』とか『これならこちらでやっておきますね』とか笑って仕事引き受けちゃうから、皆……どいつもこいつも桜月ちゃんの笑顔にやられてる。

ほら、また誰か来た。



「伊吹」
「何」
「高宮さんのこと見過ぎ」
「だって俺の彼女だよ?!」



仕事を持ってくるのが男ばかりなのも面白くない。
俺の桜月ちゃんなのに。
桜月ちゃんが恥ずかしいから、って4機捜の奴らしか俺らが付き合ってるの知らないけど、ホントは芝浦署の全員に言ってやりたい。
つーか、警視庁の奴らみんなに言いたい。

機捜にいると他の奴と話してるとこが嫌でも目に入るし見たくない。
でも、総務に戻ったら分駐所に戻った時に『おかえりなさい』って笑顔で迎えてくれるのがなくなるからヤだ。



「昼休憩終わり。行くぞ」
「えぇー、志摩のケチ!」
「ケチじゃない、仕事だ」



引きずられるようにして地下駐車場に連行される。
それに気づいた桜月ちゃんが話の途中で『伊吹さん、志摩さん行ってらっしゃい。気をつけてくださいね』と手を振ってくれた。
………この笑顔だけで午後も頑張れそう。








































「たっだいま〜」
「戻りました」
「おう、お疲れ」
「ねぇ……桜月ちゃんは?」



朝、いつも密行終わって帰って来たら『おかえりなさい、お疲れ様でした』って笑顔で迎えてくれてコーヒー淹れてくれるのに。
今日はコーヒーどころかデスクにもいない。

先に戻ってた401の二人に聞いたら陣馬さんは目を泳がせてるし、九ちゃんは資料開いたまま固まってるし。
何だよ、もう。



「……高宮さんなら、2機捜の隊員に呼び出されてましたよ」
「おい、九重……!」
「2機捜の奴が、何で?」



何か嫌な感じ。
陣馬さん、やけに慌ててるし。
2機捜の奴に呼び出されたってのも気になる。
何となく顔が見たくて探しに出れば、芝浦署の駐車場で見つけた。
桜月ちゃんと、桜月ちゃんを呼び出したって2機捜の奴。
誰、アイツ。

面白くない。
連れ戻そうとしたら話し声が聞こえた。



「高宮さん、俺と付き合って欲しい」
「え、」
「仕事、嫌な顔せずに手伝ってくれて笑顔が可愛いなって、ずっと思ってて」
「あの、ありがとうございます。
でも、ごめんなさい……私、お付き合いしている人がいるので……」



もう一度『ごめんなさい』と頭を下げて彼女がこっちに向かってくる。
俺の姿を見つけたみたいで笑顔で駆け寄ってきた。
その姿はきゅるきゅるなんだけど、何かモヤモヤする。



「伊吹さん、お疲れ様です」
「……うん、」
「伊吹、さん……?」



少し心配そうな顔。
こんな顔見たくない。
でも、今はちょっと優しくできない。

桜月ちゃんの腕を捕まえて分駐所に足を向ける。
彼女の『えっ』と驚いた声が後ろから聞こえたけど聞こえないフリ。
小走りで付いてくる桜月ちゃんが転ばないくらいの速さで分駐に戻る。
俺達が駆け込むように入っていけば志摩も陣馬さんも九ちゃんさえも驚いた顔。
隊長もいる。

少し走れば気持ちもクリアになると思ってた。
走りはいつも頭をクリアにしてくれるから。
でも、今はダメだ。



「桜月、」
「っ、はい……」



振り返ればちょっと息を切らした桜月。
ごめん、いつも一緒に歩くペースよりもかなり速いのは分かってた。
それにいつもは『桜月ちゃん』って呼んでて、呼び捨てにすることなんてほとんどないから驚くのも分かる。



「俺と結婚して?」
「、え……」
「誰かに告られんの無理。もう結婚しよ」
「え、えー……と、」



ぽかん、とした表情のまま俺を見上げる桜月。
あれ、もしかして聞こえなかった?



「桜月、結婚しよ」
「待て待て待て待て!」
「何、志摩」
「お前な……こんな場所で何を……!」
「だって『伊吹桜月』になれば変なの寄って来ないじゃん」



俺の肩を掴んで桜月から引き離そうとする志摩に向かって、名案じゃね?と言えば、何か言いかけた志摩が深ーい長ーい溜め息を吐いた。
『有り得ない』って九ちゃんが小さく呟いたのが聞こえた。
陣馬さんも隊長も呆れてるのが分かる。
でも、今は桜月しか見えてなくて。



「………しい、」
「え?」



隣の志摩が聞き取れなかったみたいで、小さく声を漏らす。
でも、俺には聞こえた。



「嬉しい、です……『伊吹桜月』かぁ……」



頬に手を当てて恥ずかしそうに笑う桜月がきゅるきゅる飛び越してめちゃめちゃ愛おしい。
思わず引き寄せて抱き締めれば志摩に頭を叩かれた。
痛いから夢じゃない。



「絶対幸せにするから!」
「あ……それは嫌です」
「え、」



予想外の言葉に俺だけじゃなくて、志摩や陣馬さん達まで固まった。
桜月だけが笑顔で、それが悲しくて。



「だって、一緒に幸せになって欲しいですもん」



だから私だけなんて嫌です、と笑う桜月の顔は今までで一番きゅるっとしてて。



「〜〜〜っ、桜月好き!」
「ふふ、私もです」



今日は間違いなく俺の人生で一番最高の日。


*衝動的プロポーズ*
(若けぇなァ、おい)
(結婚式のスピーチ考えないといけないわね……)
(分駐所でプロポーズって有り得ませんね)
(まぁ……本人がいいなら、いいんじゃないか。俺は一度止めた)


fin...


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