S 最後の警官

□涙の理由
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「…………?」



帰宅してみればいつもの出迎えはなく、リビングからうっすらとテレビが流れている音が聞こえる。
起きてはいるようだが、帰宅したことにも気づかないほどにテレビに集中しているのだろうか。
そういえば最近毎週楽しみにしているドラマがあるとか言っていた気がする。



「桜月」
「っ、伊織…?」



声をかければ弾かれたように俯き加減だった身体を揺らして振り返る桜月。
その瞳が濡れていることは一目瞭然だった。
自分でも眉が寄るのが分かる。



「……どうした」
「ごめ、何でもない。気づかなくてごめんね、軽く食べる?」
「何でもない、って顔じゃないだろう」
「…………」



目元を荒く擦ってから取り繕うように笑ってキッチンへ向かう桜月の手を掴まえて顔を覗き込めば、眉を下げてまた目を潤ませる。
テレビからはトーク番組の軽快な笑い声が聞こえる。



「どうした…?」
「……笑わない?」
「あぁ」
「呆れない?」
「……内容による」



少しの間、逡巡して口を開く。
ドラマの内容が辛過ぎた、と。
口ではうまく説明はできないけれど、想像を遥かに超えた内容で心の整理ができていない。
ただただ辛い、と。



「…………はぁ」
「ごめん、ね?」



ドラマに感情移入して30分近く涙を流すとはどれだけ感受性が豊かなのか。
……泣き顔なんて久しぶりに見た気がする。
そういう理由ならば、まだいい。
まだ落ち着かない様子の桜月の頭を引き寄せて腕の中に閉じ込めれば、うぅ…と呻き声にも似た泣き声が漏れた。



「スーツ、汚れちゃう……」
「構わん」
「伊織……」
「何だ」
「ご飯、食べたら一緒にドラマ見てくれる……?
もう一回見たいんだけど、一人じゃ受け止めきれない…」
「……あぁ」



ぽんぽんと頭を撫でてやれば目尻に涙を浮かべながらも先程よりは少しマシになった笑顔を見せた。
それでいい、桜月に泣き顔は似合わない。


*涙の理由*
(何でかなぁ……何でこうなっちゃったのかなぁ…)
(………)
(あ、ごめんね。付き合わせちゃって)
(いや……)
(伊織?)
(2回見ても泣けるお前に驚いてるだけだ)
(これは何度見ても泣くよ!?)


fin...


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