S 最後の警官

□悪いのは君
2ページ/5ページ



この状況を怖いとは思わないけれども、非常にマズい。
何で銀行寄ろうなんて思ってしまったのだろう。
いや、だって振り込みとか記帳とか色々用事があって、伊織の荷物を届ける帰り道に銀行があったから、ただそれだけで。
まさか平和な日本で、しかも白昼堂々と銀行強盗が入るなんて思ってもみないじゃないか。
……すぐにSATか、彼の配属されているNSPが助けに来てくれるとは思うのでそこまで不安に陥ることはないけれども。

でもこういうのってタイミングというか運の問題で。
もしあの時、伊織の荷物を直接本人に渡すことができていたら……と頭の片隅に過る。
恨みはしないが、あの時に好意に甘えず自分で渡すことを選んでいたら銀行に入るタイミングがズレていたのになぁと後悔はある。

ガムテープで後ろ手にぐるぐるに固定されながら、ぼんやりと意識を飛ばしていたら小さな女の子を犯人グループの一人が抱え込んだのが目に入って一瞬で頭に血が上ってしまった。



「ちょっと!小さい子を盾にするなんてひどいじゃないのよ!!」



あ、しまった。
少し考えてから発言しろ、といつも言われているのに。
犯人グループだけでなく、銀行内にいた人質の皆様の視線までもが一斉に私に集まったのが分かる。

その後は言わずもがな。
じゃあ代わりにお前が盾になれ、と無理やり立たされて半ば引きずられるようにして窓際へ連れて行かれる。
既に銀行の回りをパトカーが包囲していた。

犯人グループの要求は逃走用の車を用意すること。
勿論、警察による追尾は許さないと……あぁ、これ絶対私は連れて行かれるやつだ。
小さい子をお母さんから引き離すよりはいいんだけど……。

何よりも、この包囲網の中のどこかにきっと伊織がいる。
無事に解放されたら間違いなく何やってるんだと怒られるだろうな、と遠い目になってしまう。
犯人に銃口を向けられるよりも彼氏に怒られる方が怖いだなんて、この場では口が裂けても言えない。

































「蘇我、今のって…」
「何をやってるんだ、アイツは……」



すぐ近くの銀行に強盗が入ったと聞いた時から嫌な予感はしていた。
通報を受けて速やかに出動。
銀行内に潜入し、犯人グループの動向を窺っていたら聞き慣れた声が耳に届いた気がした。
その後で香椎隊長からの無線で人質の中に桜月がいると聞いた時には頭を抱えた。
直情型の桜月がただおとなしくしているとは思えない。

犯人グループからの要求は逃走用の車両の用意。
人質を一人連れて出て来たようだが、それは桜月だったという無線が入ったちょうどその時、犯人の一人に抱えられた彼女の姿が目に入った。
軽い頭痛を覚えて、長く息を吐く。
とにかく早く犯人の確保を。


_
次へ
前へ  

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ