S 最後の警官

□香りに包まれて
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任務と訓練と通常業務、全てが重なってまともに家に帰れたのは確か2週間前。
着替えは取りに行っていたが、誰もいない部屋に用はなく。
彼女には悪いと思ってはいるが、洗濯物だけを置いてすぐに部屋を後にする日が続いた。

『帰れる時に連絡して。帰れないって連絡は余計に寂しくなるからいらない』

いつだったかそんなことをいわれたけれど、これだけ音沙汰がないと愛想を尽かされても仕方がないな、と溜め息も出る。
今日こそは彼女の待つ部屋に、と気合いを入れてパソコンに向かい直した。








































『今から帰る』



久しぶりに送ったメールに返信はない。
時間は22時。
ロングスリーパーな彼女は下手したら既に眠りについている可能性はある。
それでも、寝顔だけでもと思っている辺り、自分も相当疲れているらしい。

部屋のドアを極力静かに開ければ、リビングの灯りが漏れて玄関がほのかに明るい。
まだ起きていたのか、とリビングに入れば洗濯物の山の中で寝息を立てている桜月の姿を見つけた。
どうやら洗濯物を畳んでいる途中で眠ってしまったらしい。
しかもその洗濯物のほとんどが自分の置いていった服なのだから申し訳なさが募る。

それにしても、だ。
何故、自分のシャツを着ているのか。
洗濯済みのものにしても、その理由が分からない。



「……はぁ……桜月、起きろ」



何にせよこのままここで寝かせる訳にもいかない。
ソファで小さくなっている彼女の肩を叩いて覚醒を促す。
いつから眠っているのか。
一度寝るとなかなか起きないのは知っているが、ぴくりともしない。
思わず脈を測ると規則正しく感じられるし、呼吸も見る限り正常。
本当にただ眠っているだけ。

綺麗に畳まれた洗濯物を寄せてソファに腰を下ろす。
隣を見れば何故か自分のシャツを着たままで気持ち良さそうに寝息を立てている桜月。
元々小柄なのは知っているがシャツで全身が隠れそうな勢いだ。
シャツの袖口から指先だけが見える。
おそらくシャツの下には部屋着は着ていると思うが裾からは白く伸びた腿しか見えない。



「……何だ、これは」



2週間ぶりに帰って来たと思ったら、何の拷問だ。
自分のシャツを、彼女が着ているだけなのに。
やけに官能的に見えるのは自分が疲れているからか。

……ダメだ、風呂に入って気持ちをリセットする必要がある。
風呂から上がってもきっと眠っているであろう彼女を連れて寝室へ行って眠ろう。
余計な考えは汗と一緒に流すしかない。



「ん……」



横向きに小さく丸まっていた彼女が身動いで仰向けになる。
起きたか、と思えば気持ち良さそうな寝息はそのまま。
穏やかな寝顔に凝り固まっていた身体と頭が少し解れた気がする。



「……まったく、」



顔にかかった髪を払ってやった後で寝室からブランケットを持ってきてかければ、瞼が微かに揺れてうっすらと持ち上がった。


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