S 最後の警官

□終止符
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「じゃあ、かんぱーい!」
「お疲れ〜」



ここはまんぷく食堂、の一角。
同期のゆづるの幼馴染の家で、今日は珍しく二人での飲み会。
他の同期達は合コンだ、エステだ、夜勤だと忙しくて。
他の子と二人で飲みに行くことは滅多にないけれど、ゆづるは別。
ゆづると二人だからこそできる話もある。



「最近どうなの?神御蔵さんとは」
「どうって……何もないよ、なーんにも。
桜月こそ蘇我さんとどうなのよ」
「私だって相変わらずだよ、向こうは相変わらずの仕事魔人だし」



そんな切り出しから始まった今日の飲み会。
私もゆづるもお互いの幼馴染のことで悩んだり頭を抱えたり……それに気づいたのは随分前にこのまんぷく食堂で行われた合コンの時。
ゆづると彼の距離感が何となく私と伊織のそれに似ていて。
聞いてみたらやっぱりそうだった、というところから元々仲は良かったけれど、ゆづるとはそこから二人飲みする機会が急激に増えた。



「何考えてるか分かんないしさ〜……」
「そうなの?」
「そうだよ、フラッと部屋に来てご飯食べて人のベッドで寝て、また『仕事だ』って出ていっちゃうんだもん」
「それって桜月に甘えてるんじゃないの?」



甘えている、と言われればそうなのかもしれない。
でも彼が掴みどころのないのは今に始まったことではない。
幼馴染という関係だけれども、彼の深い部分には踏み込めない。
踏み込んでしまったら今の関係が壊れてしまいそうで、怖い。



「ほらほら、そんな暗い顔しないの」
「ゆづる〜……」
「今日は飲も、ね?」
「じゃあもう一回かんぱーい!」



明日はお互い休み。
深酒しても問題ない。












































「そもそもさ?こっちがいつでも待ってるって思ってる時点でおかしいのよ」
「そうだそうだー!私達にだって出会いはあるんだー!」



美味しい料理にお酒も進み、ほろ酔いから酔っ払いへと進化。
神御蔵さんのお母さん、花さんも途中から呆れた様子で『飲み過ぎ注意だよ』とお茶のピッチャーを持ってきてくれた。
が、それには目もくれず二人でビールを呷る。
そういえば、と前置きをした後でゆづるがテーブル越しに身を乗り出して、



「桜月、この前循環器科の先生に結婚を前提にって告白されてなかった?」
「、?!
ゲホゲホッ……何で、知ってんの?」
「噂で聞いたけど……本当だったんだ」



先日、循環器科の先生から交際を申し込まれたことは事実。
昼休みに呼び出されて病院の中庭で『付き合ってほしい』なんて、ドラマのような展開。
確かに人の多い時間だったけれど、救命に異動したゆづるにも知られていたなんて。
大きい病院とは言え、狭いコミュニティだ。
しかも看護師同士の噂話なんてあっという間に広がっていく。



「どうするの?」
「どうもこうも、……断ったよ、当たり前じゃない」
「そうだよねぇ……」



良い雰囲気だったって聞いたからびっくりした、なんて言われてずるずるとテーブルに突っ伏す。
勝手に良い雰囲気だなんて決めないでほしい。
以前、担当した患者さんで循環器系に持病があった方がいて、その件で少し相談をしてアドバイスをもらったことがきっかけで話すようにはなったけれど、お付き合いをするなんて考えたこともなかった。

……確かに、医師とはいえ同じ病院で働く人で、その気になれば毎日会える。
けれど、



「仕事魔人で会えなくても……やっぱり伊織がいいよ」
「桜月〜!健気だよ〜!」
「ゆづる〜!!」



テーブル越しに抱き合って、今日何度目かの乾杯。
ゆづるもゆづるで神御蔵さんの愚痴やら惚気やらを吐き出しまくって。
何て報われない、私達の恋。

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