MIU404長編

□七話
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誕生日から数カ月が経ち、また新しい年を迎えた。
今日は休日だというのに朝早くから起きて美容院へ。
着付けとセットが終わって帰宅……の前にいつものように交番へ。



「ただいま……」
「お、祝成人〜」
「眠い、着物重い、苦しい、早く脱ぎたい」
「成人式これからじゃん?」
「スーツでいいって言ったのに……」
「それはおやっさんも由布子さんもオッケー出さないでしょ、俺も振り袖楽しみだったし〜」



今日は成人式。
初めはスーツでいい、と断ったけれど祖母が赤い振り袖を出してきて桜月ちゃんのお母さんが着た物だから、と笑顔で言われては逃げ場もなくて。
帯の苦しさ以外にも溜め息が漏れる。



「そういえば藍ちゃん、今日はちゃんと制服着てるんだね」
「いつも俺がちゃんと制服着てないみたいな言い方しな〜い。今日は成人式に行くんですぅ」
「……藍ちゃんも?」
「いやいや、俺はとっくに成人してるけどね。会場警備ってことで」
「ふーん……」



着物に時計は、と思ってバッグに入れておいた時計を取り出して時間を確認。
一度家に帰って行く時に着ていた服や荷物を置いて写真を撮って……としていたら、そろそろいい時間。
文字通り重い体を椅子から引き離す。



「ん?もう行く?」
「流石に一回二人に見せてからじゃないと」
「確かに〜」



当たり前のように私の荷物一式を持って一緒に交番を出る藍ちゃん。
この後、会場警備に向かうにしても公私混同もいいところだ。
それでも正直助かる。
ただでさえ着物で体が重いのに、更に荷物を持ってここまで来るのも大変だった。



「ただいまー」
「おはよーございまーす」
「おかえり、桜月ちゃん。あらあら、藍くんも」
「由布子さん、おはよー」
「おはよう、藍くん。
おじいちゃん、桜月ちゃん帰って来ましたよ」
「あぁ」



おそらく玄関で待ち構えていた祖母が笑顔で出迎えてくれた。
そして祖母の呼びかけで居間から祖父も顔を出す。
何となく気恥ずかしいのは慣れない着物だからか。



「伊吹、ネクタイをきちんと締めろ」
「いやいや、おやっさん。そこは俺じゃないでしょ。
桜月ちゃん、めちゃめちゃ可愛いのに」
「そうですよ、こんな別嬪さんどこを見てもいませんよ?」
「二人共、お願いだから止めて」
「……写真、撮るぞ」



一度居間に消えた祖父がカメラと三脚を持って出て来て、そのまま外へ出ていった。
呆気に取られていたら藍ちゃんに肩を叩かれる。



「きゅるきゅるな格好、撮ってもらいなよ」
「え、あ……うん?」



何だろう、いつもと違うこの感覚。
いつも着崩して着ている制服をきちんと着ているからか、私自身がこんな格好だからか。
何にせよさっきから心臓が落ち着かない。



「ほらほら、笑って笑って。1足す1は?」
「にー」
「相変わらずカメラの前だと不自然だな」
「もー、一人で撮るの恥ずかしいってばー」
「あ、じゃあ俺がシャッター切るからおやっさんと由布子さんも入って入って〜」



藍ちゃんに押されて二人も写真のフレーム内へ。
結局、私と祖父はどうにもぎこちない顔になってしまい、皆で大笑い。
そうだ、と妙案を思いついたように声を上げた祖母がにっこりと笑って言った。



「藍くん、桜月ちゃんと写真撮ってくれるかしら」
「おばあちゃん?」
「ほら、きっといい顔で撮れるわよ。それにせっかく藍くんが正装してる数少ない機会なんだから」
「由布子さーん、それ結構ひどくない〜?」
「ほらほら、早くしないと遅れちゃうわよ〜」



カメラ係に徹していた藍ちゃんが今度は私の隣へ。
思わず顔を見合わせれば、いつものご機嫌な笑みを返された。
まぁ、こんな格好は確かにお互いに滅多にしない。
記念に一枚くらいあってもいいか。
藍ちゃんはもう、半分家族みたいなものだし。



「こっち向いて笑ってね〜」
「撮るぞ」
「はーい、桜月ちゃんスマーイル」


皆がやけに楽しそうでつられて笑えば、今日一番の笑顔だと大喜びの祖母。
それはそれで何だか恥ずかしくて、照れ隠しに時間を確認すればもうなかなかいい時間。
そろそろ出ないと受付に間に合わなくなる。



「行ってくるね」
「足元気を付けてね、草履歩きにくいから」
「うん、行ってきます」
「じゃあ俺も行ってきまーす」
「お前は早く行け。ここで油売ってる場合か。もうとっくに会場警備入ってる時間だろ」
「厳し〜!」



じゃあまた後で〜!と駆けていく藍ちゃん。
あっという間に姿が見えなくなる。
私もそろそろ行かないと。


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