MIU404長編

□四話
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「…………、?」



目を開けると室内は夕闇に包まれているようだった。
私、どうしたんだっけ。
若干痛む頭を回転させて思い出した。
伊吹さんがハムちゃんを連れて来て、話してる途中で頭が痛くなって、………そこからどうなった?

そこまで考えを巡らせて気づく。
右手がやけに温かい。
ゆっくりと首を動かして右手を見れば、大きな二つの手が私の右手を包んでいた。
その先を見れば椅子に座って私の手を握ったまま眠っているように見える伊吹さんの姿。



「伊吹、さん……?」



乾燥しているせいか、空気が震える程度にしか声が出なくて。
けれど彼には届いたようで、伏せられていた瞼がゆっくりと持ち上げられてその瞳に私が映ったのが分かる。



「桜月、ちゃん……?」
「ごめんなさい、私、眠ってた……?」
「良かった……」



くしゃっと顔を歪めた伊吹さんが包まれたままだった右手を彼の額に押し当てられる。
その姿を見ながらまた心配かけちゃったな、とどこか遠くで考えていた。

伊吹さんの話を総合すると頭を抱えたまま意識を飛ばした私は何の反応も示さず、また昏睡状態に陥ったのかと思われたらしい。
医師からは刺激を与え過ぎたのではないかと言われたらしい。



「ちょっと脳みそ疲れちゃったのかもな」
「ごめんなさい、心配かけて……」
「ん、大丈夫」



そっと頭を撫でられる。
優しい手の感触に何故か涙が一つ落ちた。
自分でもどうして涙が落ちたのかは分からない。
ただその温もりはどこか懐かしい気がして、ゆっくりともう一度瞼を下ろした。



「寝る……?」
「ん、」
「おやすみ」



もう少しだけこのままで、そう言葉にする前に意識が微睡みに溶けてしまった。






































次に目を開けた時にはもう既に室内が光に包まれていて。
時計の針は7時を指していた。
どのくらい眠ってしまっていたのだろう。
頭はやけにすっきりしている。

そういえば眠る前に側にいてくれた彼は流石に帰ったらしい。
面会時間は昼から夜の間だし、一度意識を浮上させていることを考えれば帰るのは当然。
ただ…………それを寂しいと思うのはどうしてだろうか。
私にとって、彼は、



「高宮さん、おはようございます。
調子はどうですか?」



回診で入ってきた看護師に声をかけられて思考が中断される。
何だろう、今何か頭を過ぎった気がしたけれど………思い出せない。



「高宮さん?」
「あ、すみません……いっぱい寝たから、だいぶすっきりしました」
「それは良かった。彼氏さんも心配してたわよ?明け方までここにいたんだけど仕事だから行くんでお願いします、って帰られたわ」
「………え、」
「仕事終わったらまた来ます、って愛されてるのね〜」



検温や血圧測定の間の何げない会話のつもりだったのだろう。
明け方まで、ここにいた?
伊吹さんが?



「高宮さん?」
「え、?」
「大丈夫?頭痛い?」
「あ、いえ……大丈夫です、はい」



彼にとって、私は、どんな存在だった?
どうして私は忘れてしまったの?

考える度に頭が痛くて。
痛みから逃げる為に、思考を止めていた。
けれど、これ以上逃げてはいけないのかもしれない。
私を見ているようで、私ではない誰かを見ている彼の為に。


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