コウノドリ

□半分こ
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外来が終わり、医局に戻った桜月が独り言のように呟いた。



「アイス食べたい」
「……は?」



先に戻っていた四宮が何の脈絡もないその発言に冷たい一言を返した。
そんな彼の発言も慣れたもので、意に介した様子もなく自分のデスクについてパソコンを起動させた。
一緒に会話を楽しむタイプでないことは重々承知しているが、一方的に話せばある程度返事をしてくれるのも分かっている。



「今日、上のお子さん連れてきてた方がいてさ。その子が終わったらアイス買ってもらう約束してたみたいで『アイス食べたい!ママまだ?アイス!』って言ってて…で、私も食べたくなった」
「単純」
「うっさい。あー、アイス食べたい。アイスアイスアイスアイス」
「煩い。買ってくればいいだろ」
「…それもそうね、行ってくる。春樹も食べる?」
「ダッツのバニラ」
「人の奢りだと思って高いやつを…」
「早く行って来い、昼の時間なくなるぞ」
「はいはーい!」



財布を手に、売店へ急ぐ。
私は何にしようかな、とアイスケースに向かえばその前のカップ麺コーナーに見慣れたモジャモジャ頭。
勢いをつけてタックルをかます。



「サークラ!」
「おっと、桜月?珍しいね、どうしたの?」
「アイス買いに来た。サクラは……まぁそうよね」
「アハッ、ストックがなくなっちゃってさ」
「サクラもアイス食べる?」
「んー?」
「春樹はダッツのバニラだって。あと小松さん達にも差し入れようかと思って」



ど·れ·に·し·よ·う·か·なと桜月がアイスケースを覗き込めば隣に並んだサクラも一緒に覗き込む。
カップアイス、棒アイス、モナカアイス…病院の売店にしては種類が豊富である。
いつだったか売店のアイスの種類を増やしてほしいと桜月が意見BOXに匿名で何度も投書したことを思い出したサクラ。
地道な努力も重ねれば実るんだなぁ、としみじみしてしまう。



「ダッツのバニラは確実でしょー、小松さん達もダッツかなー」
「ダッツって、このボーデンダッツ?」
「そうそう、いいお値段するんだけどねー。やっぱり高いだけあって美味しいのよ」
「へぇ…」



正直、何が美味しいかなんてよく分からない。
昔から食事に関しては頓着することはなく、腹が満たされればそれで良かった。
糖分も口にしないことはないが、脳に栄養を与えるにはブドウ糖が一番で、それなら彼女の言う嗜好品の甘い物でなくて果物や、それこそラムネ菓子の方が効率的だと思う。
そんな話を随分昔にしたら、信じられないという顔で甘い物は心のオアシスだと力説された覚えがある。



「あ、僕これがいい」
「……ダッツじゃなくていいの?」
「うん、これ」



遠慮なく高級アイスを指定してきた同期との差を考えたのか、奢りなのにそんな安いアイスでいいのか、と思いきり眉間に皺を寄せる桜月。
彼が手に取ったのは1袋に2本入っていて、チューペットのように吸って食べるコーヒー味のアイス。
本当に欲がないというか食事に対して取り分け甘い物に対しての頓着がない。
これはこれで美味しいが、高級アイスと比べれば味は格段に違う。



「これ、桜月と一緒に食べたいなぁって思って」
「………サクラってさ、」
「うん?」
「たまに可愛いこと言うよね」



二人で同じ物を食べるのって何かいいじゃない?なんて、そんなことをそんな風に言われては断る理由もなく。
自分用に手に取った高級アイスをケースに戻してレジに向かう。
早く戻らないと昼休みが終わってしまう。



「あ、ちょっと」
「うん?」
「言い出しっぺなんだから私が出すって」



さらっと会計を済ませようとするサクラを制するが、それを更に制されてしまう。
私が食べたいって言ったのに、と膨れる桜月を見つつアイスが大量に入った袋を受け取り、売店を後にするサクラ。



「僕の我儘に付き合ってくれるんだから、これくらいさせてよ」
「もー……ありがと」
「どういたしまして」



二人並んで医局へ戻り、鴻鳥先生が奢ってくれましたー!と一人ひとりにアイスを配る桜月。
サクラがデスクに座れば四宮がアイスの蓋を開けながら横目でサクラを見遣る。



「何だよ」
「お前も大概甘いな、サクラ」
「まぁね、あの笑顔を見られるなら安いもんだよ」
「サクラー、はいコレ」
「うん、ありがと」



アイスを配り終えてデスクに戻った桜月は先程のコーヒーアイスの外装を開け、半分をサクラに渡す。
サクラと桜月の手にあるアイスを見た四宮が驚いたように凝視しているのが見てとれる。
予想通りのその反応にサクラと桜月、二人で顔を見合わせて笑った。



「お前ら、学生か…」
「えー、たまにはいいじゃない。もしかして春樹も半分こしたかった?」
「いくら四宮でも桜月と半分こはちょっとなぁ…今度、僕と半分こにする?」
「いらん…」



医局であっても四宮の前ではナチュラルにイチャつくサクラと桜月。
ようやく来た遅い春を満喫する同期二人。
アイス以上に甘ったるい二人の雰囲気に当てられつつも、思えばそれぞれに恋愛相談をされていた頃が懐かしい、と気づかれないように笑みを浮かべた四宮。
付き合い始めるまでにこんなに長くかかるとも思わなかったが、ようやく纏まるところに纏まったと言ったところか。

遅咲きの恋、これまでの分を埋めるくらい愉しめばいい
柄にもなく同期達の幸せを願う四宮であった。



*半分こ*
(……足りない)
(え?)
(やっぱりダッツも買っておけば良かったー!)
(太るぞ)
(甘い物は別腹って言うでしょ!)
(まぁまぁ、じゃあ帰りに買っていこうよ)
(サクラは抹茶ね、私チョコにするから。半分こしよう)
(そんなに食べられるかな…)
(……単にお前が食べたいだけだろう)


fin...


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