コウノドリ

□癒やし効果
1ページ/1ページ


お互い珍しく定時で上がることができた日。
最近、連絡は取っていたがすれ違いも多く久しぶりに夕飯を一緒に食べたいという彼女の申し出を断る理由もなく。
どこかに食べに行こうかと思ったが家でゆっくりしたいと言われればそれも断る理由はない。
ただ、自分が料理のスキルが皆無な為、彼女に負担をかけてしまうことになると申し訳なく思っていたら『美味しいって食べてもらえるのが嬉しいからいいの』と何てことないように言われたのはまだ記憶に新しい。

そうして彼女と待ち合わせをして近所のスーパーで買い物をしてからマンションに帰り、夕飯の支度をする彼女とそのアシスタントをする僕。
こんな時間も愛おしい。
あっという間にご馳走が並び、食べ始めた頃に気づいた。



「……桜月、さん?」
「うん……」



会話の内容が頭に入っていないような生返事。
よく見れば食事も進んでいない。
あぁ、鈍感にも程がある。



「桜月、疲れてる?」
「えっ……あぁ、ごめん。何だっけ?」
「うん、一回箸を置こうか」



彼女の手から箸と茶碗を受け取り、テーブルに置いて彼女の足元に膝をつく。
そっと手を握ればビクッと身体が震えて、焦点が合った瞳とようやく視線が交わる。
手が冷えている。



「何かあった?」
「いや、何かあったというか……うん、ちょっと色々あって疲れちゃって…」
「ごめんね、気づかなくて。疲れてるならやっぱり外で食べれば良かったね」
「それはいいの、本当に。家でゆっくりしたかったし、料理作るのはストレス発散になるし」
「それは有り難いんだけどね、あまりにも疲れてるみたいだったから」



この時期にしては冷えている彼女の手に温もりが戻るように、優しく撫でるように手を擦れば先程の緊張が少し解けた気がした。
こういう時、無理に聞き出そうとすると『大丈夫』と透明な壁を作ってしまうのは分かっている。
さてどうしようか、と次の手を考えているところに上から言葉が降ってきた。



「あの…サクラ、さん?」
「うん?」
「お願いがあるんだけど……」
「僕にできることなら」



彼女からの珍しいお願い。
断る理由なんてあるはずがない。
僕にできることなら何でもしよう。
そう思って次の言葉を待つが、恥ずかしそうに目を泳がせている彼女が口を開けたり閉じたりしている。
これは彼女の言葉を待つべきか否か。



「…………って、して」
「え?」



恥ずかしそうに頬を朱に染めながら小さく発したその言葉は、耳に完全な言葉で届かなくて。
思わず聞き返せば更に耳まで赤く染まっていく姿が可愛くて。



ぎゅって、して



もう一度、先程より少しはっきりと、それでも恥ずかしそうに言われた言葉は今度こそ僕の耳にしっかり届いた。
そんな可愛いお願いの仕方、どこで覚えてきたの?
椅子に座ったままの彼女を横抱きに抱えてソファに移動すれば突然の僕の行動に驚きながらも首に腕を回される。



「ごめんね、気づかなくて」
「ん……」



ソファに座って膝の上に座った彼女の背中に腕を回せば、首に回された腕にそっと力が篭められるのを確かに感じた。
耳元で癒やし効果絶大、と聞こえてそれは僕の台詞だよと笑いがこみ上げる。
君が隣にいるだけでこんなにも癒やされるんだから。



*癒やし効果*
(ねぇ、桜月?)
(ん…?)
(ハグだけでいいの?)
(うん?)
(必要ならマッサージもしましょうか?)
(……言い方が何かヤだ)
(まぁ普通のマッサージだけでは済まないかな)
(もっとイヤ)
(ちょっと傷つくなぁ)
(傷ついた顔してないじゃない!)



fin...


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ