コウノドリ

□サプリメント
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外来が終わり、医局に戻れば一足先に外来を終えた桜月がデスクに向かって唸り声を上げていた。
何かあったのだろうか、とデスクを覗けば大小様々な袋や瓶が並んでいる。
葉酸サプリのサンプルに妊娠線予防のボディクリーム、ノンカフェインコーヒーなど種類豊富に並んでおり、サンプル配りでもするのだろうかと思うくらいだった。



「何、コレ?」
「あぁ、お疲れ。
いや…最近、よく聞かれるのよ。『先生、何かオススメのサプリメントとかありませんか?』って……私自身使ったことないし、気分が悪くならなければ何でもいいですよ、それにコレがいいって製品名挙げてオススメはできないんです、って言ったら大体驚かれて…」
「驚かれた?」
「いやぁ…この年で結婚も妊娠もしたことない産科の女医に驚いたんじゃない?」
「…それ、僕どういう反応したらいい?」
「うん、聞き流して。
で、ちょうどMR(製薬会社の営業担当者)が来ててサンプル頂戴って言ったら山ほどくれた」



そういえばさっき外来ロビーにいたな、と大きな鞄を持った男性と廊下ですれ違ったことを思い出した。
……ちょっと待て、確かあの男は以前、桜月を食事に誘っていなかったか?
思わず眉間が寄る。
そんな心中を察したのか桜月が何でもないように言葉を続ける。



「また誘われたけどね。断ったわよ、『お付き合いしてる人がいるので〜』って」
「……そう」
「ねえ、この量を一人で試すの時間かかるからサクラも手伝ってよ」
「はいはい…」



手始めに葉酸サプリの小袋をそれぞれ手に取る。
妊娠初期の胎児の神経管などの環状構造物が形成されるうえで重要な働きをもつ葉酸だが、妊娠初期はつわりが酷く出ることもあり、食物からの摂取が難しい場合もある。
それをサプリメントで補う訳だが……



「んー…」
「青臭い」
「粒も大きいから飲み込みにくいかもね」
「こういうサプリで匂いが強いのって問題外じゃない?」
「匂いづわりがある人もいるからねぇ…」



はい、却下と手書きの表に✕をつけて空のパッケージを捨てる桜月。
こういう時は本当に潔い。
次々に試したいが、いくらサプリメントとは言え過剰摂取は宜しくない。
サプリメントとボディクリームに分けて紙袋に入れて、デスクに置いたと同時ににぎやかな声が聞こえてきた。



「お疲れ様〜!」
「お疲れ様です、小松さん」
「何してたの?」
「あー、ちょっとサプリを試してました」
「どれどれ……葉酸、鉄、カルシウム…デカフェコーヒー…妊娠線予防クリーム……まさか桜月先生!」
「ちーがーいーまーすー、小松さん知ってるでしょ?私が最近サプリのこと聞かれてるの」
「ああ、何だ…ビックリした、てっきり赤ちゃんができたのかと思ったよー」



大仰に桜月の肩に凭れかかる小松の肩をぽんぽんと叩き楽しそうに笑う桜月。
本当に仲いいなぁ、この二人。
目の前のやり取りを見ながら昼食の用意を始める。



「大丈夫ですよ、小松さん。ちゃんとサクラが避妊してくれてるし」
「ちょ、桜月?!」
「ん?」
「そこんとこは流石しっかりしてるね〜」
「まぁ私としてはいつでもいいんですけどね、一応順番は守ろうかと思って」
「本当に…そういうの反応に困るんだけど」



天気がいいから屋上で食べよーっと、と焼きそばパン片手に元気に医局を出ていく桜月。
残されたのは小松さんと僕な訳で。



「いつでもいいってよ」
「はぁ……」
「まぁどこかに行っちゃう心配はないけどねぇ、付き合い長くてお互いよく知ってるんだしあんまり悩まずプロポーズしちゃったら?」
「そうですね……」



珍しく尤もな意見を口にする小松さんに頷くしかできない僕。
次に休みが合うのはいつだったかな、とシフトを思い出しながらカップ焼きそばにお湯を注いだ。



*サプリメント*
in 屋上
(……何だ、顔が赤いぞ)
(春樹ー…)
(またサクラ絡みか)
(我ながら爆弾発言したなぁ、と)
(今度は何だ)
(子どもはいつできてもいいと思ってる)
(ゲホゲホッ…お前……!)
(それ以上言わないで!自分でも分かってるから!)


fin...


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