コウノドリ

□愛のかたまり
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※某関西少年の歌の歌詞の一部分からヒントを得て書きました。
タイトルの曲を検索していただけると納得していただけるかと思います。
説明の通り、ひたすらにお馬鹿なことを真面目に言ってるだけの鴻鳥先生です。





「研修?」
「うん、って言っても日帰りだし3駅隣のセミナールームでなんだけどね」
「……研修」
「うん、久しぶりに行くことになったよ」
「それって、いつ?」
「え?再来週の木曜日だったかな…?
ちょっと待って。今日詳細が届いてたから……」



彼女の部屋で夕飯を一緒に食べ、食後のコーヒーを飲んでいた時に思い出したように少し先の日程を口にした桜月。
突然、詳細を聞かれて少し困ったような表情を見せた後で仕事用の鞄から研修日程が表記された用紙を取り出した。



「あー、うん。やっぱり再来週の木曜日」
「何時から?」
「え?8:30受付開始で9:00から研修始まるけど…」
「それって一日かかるの?」
「んー、昼休憩挟んで16:30までになってる」
「………再来週の木曜日か」
「サクラ?」



指先を口元に当てて動きが止まっている。
これはサクラが何か考え事をしている時の仕草。
このタイミングで考え事とは何なのだろう、コーヒーを啜りながらサクラの様子を窺うがその表情からは答えに行き着かない。
しばらくその状態が続き、そろそろ痺れを切らした桜月が口を開いたその時。



「僕も行くよ」
「……………………………はい?」



また突拍子もないことを。
開いた口が塞がらないとはまさにこのことである。
誰がどこに行くって?
何しに?何のために…?
様々な疑問が桜月の頭を駆け巡るが、そんな様子に気づかないのか気づかないフリをしているのか、サクラは自分の答えに納得したように頷きながらスマホを開いてスケジュールを確認している。



「来週なら無理だったけど、再来週ならカンファレンスが金曜日だし休みも替わってもらえるかな」
「うん?」
「8:30受付開始なら、その時間に着くようにしてもいいけど電車の遅延があると困るし少し余裕もって8:00到着とすると…」
「えーと、サクラ?」
「うん、7:49発の電車だね。7:30に家を出れば充分間に合うね」
「待って待って待って」
「うん?」



乗換案内のアプリまで使って細かく時間を決めていくサクラ。
あっという間に出発時間まで決まってしまい、流石にストップをかけた。
仕事を休みにして研修に付いてくる?



「ねぇ、サクラさん」
「どうかした?」
「今度行く研修ってサクラの仕事とは関係ないよ?」
「それは…まぁそうだね」
「そもそもこの辺りの保育施設の職員向けで参加します、って言ってある人しかセミナールームに入れないんだよ?」
「うん、そうだろうね」
「…………サクラは、何を、しに来るの?」



会話が噛み合っているような噛み合っていないような。
軽く頭痛を覚えて、こめかみを押さえながら最終的にストレートど真ん中な問いをサクラに投げつける。



「それは勿論、桜月を送り迎えする為に」
「………さっきも言ったけど、日帰りで3駅隣の駅前のセミナールームだよ?」
「電車、危ないじゃない」
「………私、電車乗ったことあるよ?」
「でも、さっき調べた時間って通勤ラッシュの時間だからさ」
「………サクラ、本気?」
「え、何かダメなことがある?」



この男、本気で言ってる。
取り付く島もない。
何をそんなに気にかけているのだろうか。
この辺りに住んで間もなく右も左も分からない訳でもないし、電車に乗ったことのない幼い子どもでもない。
だが、目の前の彼は本気で言葉を発している。



「……心配、なんだ」
「、え?」
「分かってるよ、桜月は大丈夫だ、って。でも普段はすぐ近くにいるのに…」
「………3駅隣も充分近いから、大丈夫だよ?」
「でも、もし痴漢とか遭ったら」
「女性専用車両に乗るから」
「途中で気分悪くなったら」
「……(だから3駅だって)
電車降りて駅員さんに助け求めるから」



心配してくれるのは有り難いが、か弱い女の子という年齢でもない。
逆にこんなことで休みを替わってほしいと言われる側の心情を慮ってしまう。
悉く打開策を打ち立てていけば、すっかり小さくなってしまったように見えるサクラがコーヒーカップを両手で包んだまま動きが止まってしまった。
少しやり過ぎたか。
いや、でも日帰りの研修で(しかも本人が受けるものではない)休みを取るのは如何なものか。

少しの葛藤の後、桜月は席を立ってサクラの足元に膝をついて顔を覗き込む。
表情を窺えばとても残念そうな顔。



「サクラ、どうしたの?何をそんなに心配してるの?」
「………うん」
「…ねぇ、サクラ。私って電車にも乗れなさそうなほど頼りない?」
「そんなことない」
「じゃあそんなに心配しないの」
「……………………心配はする」
「休みは休みでしっかり休んで、ね?」



安心させることは難しいかもしれないが、最大限サクラの心配を減らせるように。
にこり、と笑ってみせた。


*愛のかたまり*
(会場着いた時と出る時に連絡するから)
(家を出る時、電車に乗る時と降りた時、お昼食べる時、それと家に着いた時も連絡して)
(……そんなに連絡してもサクラ見られないでしょ?)
(返せないかもしれないけど、連絡があれば安心できる)
((心配性すぎる………!))


fin...?


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