コウノドリ

□召し上がれ
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今夜も帰りは午前様、なんてどこかで聞いたフレーズが頭をよぎる。
決して喧嘩をした訳ではない。
単にいつもと同じ、仕事で遅くなっただけである。



「…あれ?」



マンションの自室が近づくと、ドアノブに何かぶら下がっていることに気づく。
自分の部屋に置き土産をするのはただ一人しかいない。
しかし、今日の分のおにぎりは朝に受け取って今は自分の手に空のバッグがある。
果たして一体何だろう、とドアノブから新たな保冷バッグを外して部屋に入る。
靴を脱ぎながらファスナーを開けてみれば、ふわりと香る甘い匂い。

そういえば彼女はお菓子を作るのも好きだと言っていた。
自分の周りにいなかったが、彼女は仕事が山積みになっていたりストレスが溜まったりすると料理やお菓子作りに勤しむという。
初めて聞いた時には驚いたが、テスト前に部屋の掃除をしたくなるのと同じなんだよー、なんて笑って言っていた。

ソファに腰を下ろしてバッグの中身を出してみれば、1つ1つ透明な袋に入れられた四角くて柔らかいお菓子。



「うーん、これは…ケーキ、かな?」



こういう時は大体、彼女はメモを入れてくれる。
保冷バッグの中を覗けば、予想通り可愛いカードが入っていた。
このカード、見たことないな。また新しく買ったやつかな。
たまに一緒に出かけた時に雑貨屋を見つけると『ちょっとだけ覗いていい?』と言うのが彼女のクセのようなものだ。
そして大体マスキングテープと可愛い付箋かメッセージカードを購入するまでが一連の流れ。
マスキングテープが飽和状態だよ、なんて前に楽しそうに嘆いていたのは記憶に新しい。



「『バナナパウンドケーキ作ったので良かったら食べてね。
多くてごめんね。
ご飯代わりにしちゃダメだよ!』…か。
うーん…見透かされてるなぁ」



苦笑しながらも夜食なら許してもらえるかな、と1つ包みを開けてパウンドケーキを取り出して口に運ぶ。
ふんわりとラム酒のいい匂いが口中に広がった。

忙しい人なのにお菓子を作る暇がどこにあるのだろう。
彼女の場合、これがストレス発散になるのだから多少睡眠時間を犠牲にしてでも作りそうな気もする。
そういえば最近のおにぎりはおかず付きで、お昼のおにぎりというよりはお弁当になってきているのは、仕事が忙しいのかストレスが溜まっているのか。
どちらにしてもあまりいい傾向ではないな、と思うもののこんな時間に帰宅する自分に出来ることは少ない。



「とりあえず明日病院に持って行こうかな」



この量、食べ切る前に悪くなってしまいそうだし、せっかくなので小松さん辺りにお裾分けしよう。


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