コウノドリ

□召し上がれ
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「これ、頂き物なんだけど良かったら食べてください」
「えー何?何?パウンドケーキ!ご馳走様でーす!」
「……珍しいな」



医局にいるのは四宮と小松さんと僕。
ちょうどいい面子なので昨日のパウンドケーキを二人に差し出す。
この二人は彼女との付き合いを知っている、というか知られている。



「桜月が、作ってくれたんですけど…渡された量が多くて一人で食べ切れないなって思って」
「はぁ〜〜…惚気は聞きたくないけど、桜月先生の手作りならご馳走になろうかな」
「………美味い」



小松さんと僕の会話を聞き流していた四宮は先に包みを開けていた。
四宮が食べ物の感想を言うなんて珍しい。
それだけ彼女の作る物は美味しいということで、誇らしくも思う。



「ホント美味しい〜!え、桜月先生、これ趣味にしておくのは勿体無いわ〜!」
「前に言ったことがあるんですけどね、趣味で好きな物だけ、作りたい物だけを作るのが一番楽しい、と言われると何とも言えなくて。桜月の場合、何か作ることがストレス発散になってるみたいですし」
「まぁねぇ…言ってることも分かるかなぁ」



好きなことを仕事にするというのは難しいのはよく知っている。
僕自身、赤ちゃんは大好きだけれどもこの仕事をしていると苦しいことも辛いこともたくさんある。
彼女の仕事ぶりを見ていても、子ども達は好きだがそれだけではやっていけない、というのもよく分かる。
だからこそ現実逃避と言って料理や製菓に勤しむのだろうけれども。



「いいんじゃないのか」
「え?」
「別に本人が楽しければ」
「…うん」
「それにサクラ、お前が美味いって言えばそれで彼女は満足なんじゃないのか」
「……そうだね、うん。ありがとう、四宮」
「…ふん」



いつも鋭いことしか言わないけれど、いつも間違ったことは言わない四宮の言葉はストンと胸に落ちてくる。
本当に頼りになる同期をもったものだ。

時間を見れば18時。
今日は遅番とは言っていなかったはず。
屋上に出て電話をかける。
数回呼び出し音の後、電話が繋がった。



「もしもし、桜月?」
『…サクラ?どうしたの?今日、当直じゃなかった?』
「うん、四宮がまだいてくれてるからちょっとだけ」
『もう、四宮先生に怒られても知らないんだから』



電話越しに聞こえる彼女の笑い声。
声を聞く限りでは元気そうだが、彼女も感情を隠すのが上手い。
本当に元気なのかフリなのか判断が難しい。



「パウンドケーキ、美味しかったよ。
医局で四宮と小松さんにもお裾分けしたんだけど二人とも美味しいって言ってた。
四宮が褒めるなんて珍しいんだよ」
『本当?良かったー、ちょっとラム酒入れ過ぎちゃったかなって心配してたんだ』
「そうなの?ちょうど良かったと思うよ」
『それなら安心。サクラ、忙しいのにわざわざごめんね?電話ありがとう』
「あ、桜月?」
『うん?』
「明日、当直明けだから一緒にご飯食べたいな」
『もちろん!何食べたい?』



自分が夕飯を作る前提で話をする彼女。
料理が好きなのだから、当たり前と言えば当たり前なのだろうけれども。



「明日、僕に作らせて?」
『…カップ焼きそばにするくらいなら私作るよ?』
「いや、ちゃんと作るからさ。
桜月が作るより美味しくないかもしれないけど」
『……本当に、大丈夫?』
「心配性だなぁ、桜月が帰る頃には食べられるようにしておくから楽しみにしてて」
『…分かった、でも本当に無理だったらいいからね』
「うん、じゃあ明日。少し早いけどおやすみ」
『おやすみ、サクラお仕事頑張ってね』



思い切り不安そうな声だったけど、たまには僕が彼女の為に料理を振る舞おう。
大した物は作れないけれど、いつも彼女がしてくれるように僕のできる限りを彼女に。



*召し上がれ*
(ただいま……わ、本当に作ってくれてる…)
(大した物は作れないけどね)
(いや、これでサクラが料理までできたら私の立場ないから止めて)
(そんなことないよ?)
(そんなことあるの……でも、ありがとう)


fin...


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