コウノドリ

□栄養チャージ
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「………桜月?」
「うん?」
「ちゃんと、食べてる?」
「うーん……まぁ、一応は」



彼女の顔を見るのは一週間ぶりだろうか。
少し見ない間に一回り小さくなってしまっているのは気のせいではないはず。
問うてみれば曖昧な返事が一番分かりやすい答えである。



「体調悪かった?ごめんね、気づけなくて」
「あー、違う違う。この時期、どうしても食欲落ちちゃって…」



聞けば梅雨から夏にかけてのこの時期、下手すると夏の暑さが落ち着くまで、ほぼ毎年のように食欲がなくなってしまうと言う。
全く食べられない、ということはなく多少なりとも何か口にしているが、摂取量はかなり少なくなっているらしい。
夏の暑さによる自律神経系の乱れにより現れる症状、所謂夏バテ。
彼女はそれが食欲不振として現れているということか。



「今日は?何食べた?」
「んー…レタスサンド?」
「……だけ?」
「あとスープ少し」
「そのうち倒れるから、ちゃんと食べて………」
「うぅ…」



手を取って脈を測ればひどく弱っているということはないが、いつものように測れる訳でもない。
調子が少しずつ落ちてきているのは間違いないようだ。
ちょっとごめんね、と下眼瞼の内側を見れば貧血も起こしている。
これも食欲不振の一因か。
一度受診して鉄剤を飲んだ方が良さそうだと考えていたら、目の前の彼女がふふふっと楽しそうに笑った。



「ん?」
「あ、ごめん。お医者さんみたいだなーって」
「…お医者さんだからね。
桜月、一度受診して鉄剤処方してもらった方がいいよ。正確な数値は分からないにしても貧血もあるみたいだし、そこが改善されれば少しは良くなるかも」
「病院かぁ…」



分かりやすく表情が曇る。
病院には極力かかりたくないようで、献血は好んで行くのに病院の注射は嫌いだとか。
その辺りの感覚は僕には分からないところだけれど、このまま見過ごすことはできない。



「僕のところでもいいんだけど、婦人科系はおそらく問題なさそうだし…受診するなら内科かな」
「サクラじゃ、ダメ?」
「いや…いいんだけどね、もしかしたら別な病気が隠れてることもあるかもしれないし、ちゃんと専門で診てもらった方が…」
「…サクラがいい、な?」
「うっ…」



しゅん、と更に小さくなった彼女の願いを無碍にすることなどできるのだろうか。
とりあえず自分のところで診て、もし原因が見当たらなければ内科に回してみればいいか、と考えてしまう。
……四宮にバレたら『馬鹿か』と一蹴されそうだ。



「じゃあさ…今度の土曜日、外来担当だから診てあげるから外来時間に病院おいで」
「いいの?」
「とりあえずね、婦人科原因での貧血なら鉄剤処方できるし。
ただ原因が他にありそうなら内科に回すよ?それでいい?」
「うん、ありがと」



嬉しそうな彼女の笑顔を見て、まぁいいかと思ってしまう辺り、相当甘いとは自覚している。
少し細くなったように感じる手首を引き寄せて腕の中に閉じ込める。



「…サクラ?どうしたの…?」
「んー……桜月が元気になるにはどうしたらいいかなと思って」
「ふふっ、じゃあ甘やかしてー?」
「それで元気になるなら、これ以上ないってくらいに甘やかしてあげるよ」



頭を撫でながら額に口付ければ、ふふふっと笑い声。
顔を見なくてもどんな表情か分かる。
少しでも彼女の調子が戻ることを願って。
抱き締める腕に力を込めた。


*君へ栄養チャージ*
(……婦人科って内診する?)
(うーん、必要ならば)
(…………じゃあ、サクラは嫌だな)
(えっ)
(…注射はサクラがいいけど、内診は嫌)
(…………何で?)
(何か嫌)


fin...


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