コウノドリ
□おやすみ、いい夢を。
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お互いに仕事が忙しく休みが合わないことは珍しいことではない。
それでも朝食だけ、夕飯だけ、そんな短い時間でも会話をするくらいの余裕はあった。
しかし今回は全く顔を見ていない。
すれ違いもしない。
お互いの部屋の合鍵は持っていて、相手の部屋にいても何故か会えない。
意図的に会わないようにしたこともあったが、今回は会いたいのに会えない。
「………枯れるわ、本当に…」
今日も今日とて、家主のいない部屋に上がり込んでいたが《今日も無理そう》と先程メールが届いた。
おそらくほとんど帰って来られていないのだろう。
前回、部屋を訪れた時とあまり室内の様子が変わっていない。
軽く掃除機をかけてシンクに置きっぱなしになっていたカップ焼きそばの空を片付けてシーツを外して洗濯機を回して新しいシーツと取り替えてしまえば、もうやることはなくなってしまった。
家政婦をさせたい訳じゃないよ、と言われたこともあったが、部屋を訪れて目についたものを放置しておける質でもない。
それにそもそも家事といっても大したことはしていないのだから、家政婦と呼ばれるほどの働きはしていない。
「家政婦さんの方が会えるんじゃないかなー……」
シーツを取り替えたばかりのベッドに飛び込めば、すっかり彼の匂いは消えてしまって柔軟剤の香りだけがほんのり漂う。
以前、ダイエットと称して甘い物断ち、そしてサクラ断ちをした時の彼の心境はこれだったのか。
申し訳ないことをした、と今更ながら反省する。
「……眠い…」
自身も仕事は忙しかった。
書類提出が重なった時期で遅くまで書き物をしていたり、次の仕事の準備も少しずつ始まったりして帰る時間が遅い日もある。
それでもこうして帰宅できるだけマシなのか。
寝るなら自分の部屋に帰らないと、と思いつつも日頃の疲れから来る微睡みに意識を飛ばした。
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