コウノドリ

□マスク越し
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彼は一体何日帰っていないのだろう。
部屋のドアにかけられた保冷バッグは朝と同じ重さのままだった。
今日で5日目。そろそろ体が心配になってくる。

会えないのは仕方がない。
それだけ彼が命に向き合っている証拠だから。
だが、目の前の命を救うために自分の身を削る姿は見ていて辛いものがある。
赤ちゃんとお母さんを大切に思うことと同じくらい自分の体も大事にしてほしい、そう思うのは自分の我儘だろうか。



「……なーんてね」



明日は休みだ。
お弁当作って届けるついでに顔を見に行こうかな、なんて部屋の鍵を開ければちょうどエレベーターの扉が開いた。
何気なく視線を向ければ、待ち焦がれた人。



「サクラ!」
「……桜月?」
「え、仕事終わり?こんな時間に?」
「ごめん…ちょっと近づかないで」
「えっ…」



時間は18時過ぎ。滅多なことで定時上がりなんてしない彼が今、ここにいるとはどういうことか。
驚いて駆け寄れば思いもしない彼の発言に次句が出てこない。



「ごめん、そうじゃない…。今、僕…熱があって」
「熱?」
「だから…」
「分かった、はい、とりあえず部屋入って。
あー、私の部屋よりサクラの部屋の方がゆっくりできるかな。
ご飯は?食べられそう?」
「いや、移ったら悪いし…」
「保育士も毎日ウイルスだらけの場所にいるからちょっとやそっとじゃ移らないから、ね?明日、私休みだから看病するから」



でも、とまだ何か言いたげな様子はこの際、無視。
部屋の鍵をかけ直して彼の部屋の鍵を開ける。
半ば無理やり着替えさせてベッドに押し込めば観念したのか体が辛いのか深い溜め息を吐いたサクラ。



「何か食べられそう?」
「本当に…大丈夫だから」
「その姿で言われてもねぇ…とりあえずおかゆ作るからそれまで寝てて」
「…桜月、せめてマスクはして…」
「はいはい、分かったから」



布団をかけ直して寝室から出る。
さて、彼の部屋の冷蔵庫事情は知っている。
一旦自分の部屋に食材を取りに戻るか。
ついでに冷えピタとスポーツドリンクを取って来よう。
どうせこの部屋にそう言った類のものは絶対にない。



「よし、やるか」



想像していた逢瀬とは違うがこれはこれで良しとしよう。


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