コウノドリ

□この手を繋いだままで
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事の発端はお互いの仕事が終わったのが珍しく同じ時間になり、たまには外で食事をしようといつもの豚足料理専門店に行った時のこと。
彼の先輩助産師と後輩と鉢合わせになり、一緒に食事をする流れになった。
サクラが非常に渋い顔をしていたのは分かっていたけれど、仕事中の彼の様子を聞いてみたいという興味もあった。



「え、じゃあいつもおうちデートなの?」
「デートと言うか…時間が合えばどちらかの部屋でご飯食べて、お互い仕事したりのんびりしたり…ですかね」
「えー!鴻鳥先生、桜月さんの扱い雑過ぎません?」
「いや、桜月も忙しいから…」



サクラの仕事中の様子を聞くつもりが逆に質問攻めに遭っている。
そうか、さっき渋い顔をしていたのはこういう理由か。
女性はいくつになっても恋愛トーク好きだもんね…いつもこんな感じでいじられているのかと思うと少し不憫に思う。



「雑に扱われてるとは思ってませんよ。
私も仕事ありますし、あちこち出かけると疲れちゃうので家でゆっくりする方が好きですし。
それに料理してる方がストレス発散になるんですよ。
それをサクラに食べてもらうなら一石二鳥じゃないですか」



私、基本的にインドア派なので、と笑ってからグラスを傾ければ女性二人が一緒に深い溜め息を吐いた。
変なこと言ったつもりはないんだけど…。



「桜月さん、私と同じ年とか信じられない」
「えっ?」
「ホント、鴻鳥先生には勿体無いわ!」
「それは僕自身も思ってます」
「いやいやいや、そんなことは」
「ありますよ!寧ろ私の嫁に来てくださいよ!」
「下屋、お前飲み過ぎ」
「オンコールなんで飲んでません!」



素面でこの絡みができるなんて面白い人だな、というのが彼女の印象だった。

その後も何だかんだ話に華が咲いて解散となったのは22時を回った頃だった。
サクラと二人並んでマンションへ向かう。
ペースは抑えたもののいつもよりはアルコールの量は多かった。
夜風が火照った頬を撫でるのが心地良い。



「何か…ごめんね、結局最後まで付き合わせちゃって」
「サクラが謝ることじゃないでしょー?私が一緒にどうですか、って誘ったんだから。
あんなに賑やかな人達だとは思わなかったけど楽しかったよー」



アルコールが回って足元がふわふわしている。
傍から見ていてもそう感じるのか、そっとサクラに手を取られた。



「んー?」
「今日は量が多かったみたいだからね」
「ふふふー、分かるー?」
「話し方で分かるよ」



絡められた指に力が篭められ、不思議そうに首を傾げれば、止められた歩み。
それに倣って足を止めれば、いつになく真剣な表情。



「雑に扱ってるつもりはないよ」
「さっきの話?そう思ってないって言ったよー?」
「いや、でもさ…そう言われてもおかしくないよね。
仕事仕事でなかなか一緒にいる時間ないし、桜月だって仕事があるのに僕の部屋のこともやってもらって、帰ってきたら食事用意してもらって……」
「サクラー?おーい?」
「うん、今度食事に行こう」
「うーん?」



自己完結したように頷く彼に置いてけぼりの私。
たまにこうやって突っ走ることがあるんだよなぁ。
普段は落ち着き払ってニコニコしてるくせに。



「桜月が休みで僕も休みかオンコールの日に、ちゃんとしたお店予約して食事に行こう」
「別にいいのに…」
「僕がしたいの。今まで桜月に甘えてた分、一回食事に行ったくらいじゃ返せないけどね」



そう言って笑う彼の意志は固いようで、それならばお任せします、と笑い返すしかなかった。


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