コウノドリ

□ごめんは言わない約束
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その日の彼女はとても無口だった。
いつもならばその日の出来事を楽しそうに、時には少し膨れながら話してくれるのに。
ぼんやりと焦点の合わないままに料理をし、食卓についてからも機械的に食べ物を口に運んでいる。
話しかければ返事をしてくれるが、それもどこか上の空だ。
よっぽど疲れているのだろうか。



「…桜月?」
「ん…?」
「体調悪い?」
「んー……今は悪くないけど近々悪くなる」
「え?……あー、そっか」
「察しが良くて助かります」



カレンダーを見れば、もうそろそろ月経の周期か。
PMS…月経前症候群で眠くなったり機嫌が悪くなったりすることがあると言っていた。



「もしひどいなら低用量ピル試してみる?」
「……前に飲んだことあるけど副作用で体調悪くなったのにPMSは改善されなかった」
「うーん……」



低用量ピルの副作用は大なり小なり出るものだがPMSが改善されないうえに体調を悪くしていては元も子もない。
そうなるとできるだけストレスを溜めずに過ごすのが一番ではあるが、どうやら一筋縄ではいかないようで。



「まぁ、市販の薬でもPMS抑えるのあるし、それで何とかするしかないよね」
「あとはストレス溜めないこと、かな」
「それねー…ホントそれだと思う……」
「今日も、何かあった?」



今日も、と聞くには訳がある。
ここ最近の彼女の悩みは職場での人間関係。
もっとも色々大変だ、とは聞いていたが……。



「んー…とりあえず報連相はしっかりしてほしいな、と思う今日この頃です」
「洗い物、僕がするね…」
「…ありがとうございます」



彼女が話したくないのならば、あまり踏み込むべきところでもない。
少しでも彼女の負担が少なくなるように、今僕にできることを。

気づけば食事の途中ですっかり手が止まってしまっている。
これは、あまり良くない兆候か。



「ねぇ、桜月?」
「ん?」
「ご飯終わったらコンビニ行こうか」
「……?」
「アイス、買いに行こう?
頑張っている時は何かご褒美必要でしょ?」
「、うん!」



今日初めて見る彼女の笑顔に内心胸を撫で下ろす。
ほんの少しでもいい、君の憂いを取り除けるならば。



「サクラ…ごめんね?」
「いつも桜月が言ってるじゃない、謝ってほしい訳じゃないよって」
「……ありがと、サクラ」
「正直なところ産科医としては今の体の状態で体を冷やすのはあまりオススメしないけどね?」
「うーん、それは無理かなー」



会話の中で少しずつ元気を取り戻してきたようで、少し表情が柔らかくなった。

アイスを買った後は二人でゆっくりしよう。
彼女が望まなくても思い切り甘やかそう。
途中でオンコールが入らないことを願いながら、ご馳走さまでした、と両手を合わせる彼女に微笑みかけた。


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