コウノドリ

□通常運転
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「あれー?」
「どしたの、下屋先生」
「桜月先生知りません?お昼一緒に食べようと思ったんだけど見当たらなくて」
「さっき当直室に入っていくのを見たけど」
「当直室?」



昨日の当直は四宮先生で、オンコールもなかったと言っていた。
仮眠を取るには早すぎる時間だが、体調でも悪いのだろうか。
それはそれで心配なので様子を見に行こう。



「桜月先生…大丈夫ですか……?」



控えめにドアの外から声をかければ、反応がない。
耳を澄ませてみれば誰かといるのだろう、会話が聞こえた。
良かった、それなら安心だ……と離れようとした時に桜月先生のくぐもった声が聞こえた気がしてその場で足が止まる。



「……え?」

『んっ……サクラ…』
『うん?』
『それ、気持ちいい…』
『ここ?』
『あっ……』

「ーーーーっ!」



この病院で彼女から《サクラ》と呼ばれるのは一人しかいない。
二人がようやく付き合い始めてもう何ヶ月だろう。
それでも二人共、仕事中に公私混同するような人達ではないし、そういう姿を見たこともなかった。
元々四宮先生含めた三人は仲の良い同期なので、軽口を叩いたりスキンシップを取ったりすることをよく目にした。

勿論、交際しているのだからそういう、男女の交わりがあって当然なのだが。



「(ここ、病院ですけどー?!)」

『痛っ』
『ごめん、大丈夫?』
『んー…大丈夫』
『どうする?終わりにする?』
『えー、もう少し』
『仕方ないなぁ……』



仕方なくないです、鴻鳥先生!
ダメです!ここは病院、貴方達の職場です!

……と心の中で叫ぶが、当然聞こえるはずもなく。
すっかり盗み聞きになってしまったが、何だか足が動かない。
どうしよう。



「あれ、下屋先生?桜月先生は?」
「!!!!!
こ、小松さん…!中に、いるんですけど、今は…!」
「何でよ、お昼ごはん食べる時間なくなっちゃうよ」
「それはそうなんですけど…今はホントに……!」
「桜月先生ー?ごはん食べようって下屋先生が探してたよー」



ノックを2回した後で返事も待たずにドアを開けてしまう小松さん。
ごめんなさい、鴻鳥先生、桜月先生。
小松さんを止めるなんて私には無理でした。



「あ、なーんだ。鴻鳥先生もいたの?」
「小松さん?下屋?」
「んー…?あ、お疲れ様でーす」
「………へっ?」



室内から目を背けていたら普通の会話が聞こえてきた。
恐る恐る覗けば、



「……何してるんですか?」
「今朝から背中痛くてね。
どうにもしんどくてサクラにちょっと押してくれって頼んだのよ」
「背中どころか肩から腰、全身マッサージさせたくせに」
「だってサクラ、ギネ(産科医)のくせにマッサージ上手いんだもん」
「ギネのくせに、は余計だよ。
そういうこと言うならもうやってあげない」
「ごめんごめん、またお願いしますよ〜」
「カップ焼きそばね」
「2つ買って来ます〜」



ベッドに俯せになって横たわる桜月先生とその背中を押している鴻鳥先生。
じゃあ、聞こえた来た会話はどれもこれもマッサージ中のそれということで……。
一人で勘違いして一人で慌てて…四宮先生辺りに知られたら『馬鹿か』と一蹴されそうだ。



「そういえば下屋先生、どした?何かあった?」
「あ、ごはん一緒にどうかなって…」
「あー、ありがと。行く行く!
屋上行ってる暇ないから休憩室にしよっか」
「、はい!」



良かった、私が尊敬する先輩二人は今日も通常過ぎるほど通常運転だ。



*通常運転*
(ねぇ、下屋先生?)
(はい?)
(さっき当直室の前にいたでしょ?)
(っ!?そ、れは…桜月先生がこの時間に当直室に行ったって聞いて、心配でっ…!)
(うんうん、ごめんね?変な心配かけちゃって。でも安心してよ、流石に病院内でそういうことはしないから)
((見抜かれてる……!))


fin...


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