コウノドリ

□デート当日
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出かける約束をしてから約一週間。
連絡先を交換して半日と少し。

そして、一緒に出かけるまであと数時間。



「…何、着ていこう」



一緒に出かけると決まったものの、なかなか具体的な話もできないままに前日になり、ようやく連絡先を交換した。
駅前に10時と言われたがその先どこに行くのか。
鴻鳥先生はオンコールだから遠出にならないのは間違いないが、それにしてもどんな服装がいいのか。
そもそも今の流行なんて分からない。



「……そういえば…」



少し前に友人と出かけた時に勧められるままに買ったワンピース。
一度も袖を通さないままにクローゼットで眠っているのを思い出した。
自分が普段着るような服ではないが、古い付き合いの友人に絶対似合うから!と力説されて買ってみたが不規則を幾度も重ねたような生活が続き、着る機会がなかったのだ。

ミントグリーンの花柄ワンピースにベージュのアウター。
嫌いではないが、自分では選ばない組み合わせ。



「せっかくだし、着てみるかぁ……」



勧めてくれた友人にも着たら写真を送れと言われている。
こういう機会でもない限り日の目を見ることはなさそうだし、昔馴染がいうのだから似合っていないということはないだろう。
気合いが入り過ぎと言われればどうしようもないが、少なからず想いを寄せている人と出かけるとなれば多少気合いも入るというもので。

時計を見れば約束の時間まであと1時間半。
待ち合わせ10分前には駅前に着いておきたいと考えると着替えてメイクしてヘアセットして…と逆算すればギリギリなくらいだ。
急がなければ。
いつ呼び出しがかかるか分からない先生との約束の時間に遅れる訳にはいかない。





































「っ、鴻鳥、先生っ…」
「……あ、高宮、お疲れ」
「お疲れ様、ですっ…すみません、ギリギリになってしまって……!」
「大丈夫、遅れた訳じゃないし。僕もさっき来たところだから」



結局家を出るのが思った以上にギリギリになってしまい、駅前に着いたのが約束の10時の5分前になってしまった。
全力で走ってきたが普段使わない筋肉ばかりで思うように体が動かない。
そして約束の場所には既に待ち人の姿。
先輩を待たせるなど以ての外だ。



「すみません…」
「だから大丈夫だって、ね?」
「うぅ……」



申し訳なくてもう一度謝ろうと顔をあげれば、普段のスクラブに白衣姿とは異なる私服姿の目の前の鴻鳥先生に心臓の鼓動が少し速くなるのを感じた。
バンドカラーシャツにジャケットなんて、たまに皆で行く飲み会の時と同じ服装なのに。

というか自分、気合い入れ過ぎでは…と不安になってきた。



「何か……」
「、はいっ」
「可愛いね、高宮」
「………は?」



思いがけない言葉に即座に反応ができない。
恥ずかしいのもあり服装までしか目に入っていなかったが、鴻鳥先生の顔まで目線を上げれば口元を押さえて視線を逸された。



「いや、この間も思ったけど私服だと雰囲気変わるよね。うん、可愛い」
「いや…あの、そんな可愛くはないです」
「……髪型も可愛い」



ヘアアレンジはあまり得意ではなく、トップとサイドの髪をそれぞれ後ろでくるりんぱして緩めただけの簡単なもの。
普段のひっつめ髪よりは多少マシなくらいだ。
可愛い可愛いと連呼されるのが申し訳ないくらいで鴻鳥先生を直視できないでいれば、サラッと耳元の髪を撫でられた。



「っ、……!」
「……あ、ごめん。セクハラになっちゃうね」
「…私自身が嫌だと感じていないので、大丈夫です…」
「アハッ、それなら良かった」
「あの……今日は、どこへ?」



行き先はお楽しみ、と教えてもらえなかった。
遠出はしないにしても多少歩くことは覚悟してローヒールのパンプスにはした。



「うん、色々考えたんだけど水族館はどうかな」
「水族館、ですか…?」
「うん、最近駅の目の前にできたみたいなんだ。
近場で申し訳ないんだけど…」
「あ、いえ…鴻鳥先生オンコールですもんね」
「まぁ…四宮にはお願いしてあるんだけどさ」
「……何を、ですか?」
「『今日はデートだから極力オンコールは無しで頼む』って」
「でっ…何言ってるんですか!お産に休みはないですよ!」
「アハハッ、そういう訳だから早めに行こうか」



休憩室で助産師さん達の間で話題に上がっていたので存在は知っていたが、まさか鴻鳥先生と行くことになるとは思っていなかった。
子どもの頃に行った記憶はあるが大人になってから最後に行ったのはいつのことだったか。
大人になってから行く水族館というのもまた楽しいものだろう。
先程とは少し違った胸の高鳴りを覚えながら鴻鳥先生の後を追いかけた。


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