コウノドリ

□暗闇に一筋の光
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産科医だけではない、医師であれば誰しもが通る道。
患者が亡くなる、助けられなかったという悲しい現実。
自分の無力さを痛いほどに実感する。

いつだって私達は無力だ。



「加江…」
「ごめん、桜月。私、救命に行く」
「……うん」
「救命でたくさん勉強して、お母さんも赤ちゃんも両方助けられる産科医になりたい」
「……私は加江が、また戻ってくるのをここで待ってる」



一人の患者の死によって、彼女の目の前の道が暗く閉ざされてしまったように見えた。
それでも一人でも多くの生命を助けたい、そう言って彼女は救命科へと異動願いを出して、行ってしまった。
いつも明るくて賑やかだった彼女がいなくなって、産科は火が消えたようだった。



「桜月先生、すみません。303の早坂さんが…」
「今行きます」
「桜月先生ー!そっち終わったら306の宮崎さんもお願い!」
「分かりました」



これまで女医希望の患者を二人で手分けして診ていたが、今はその患者が一手に自分のところに舞い込んでくる。
事情を話せば患者さん達も分かってはくれる。
だが、それはこちらの都合であって、彼女達の気持ちを無視することは、極力したくない。



「高宮」
「鴻鳥先生…?」
「宮崎さんは僕が行くから、早坂さんの対応終わったら昼ごはん食べてきなよ」
「え、でも…」
「大丈夫、宮崎さんは上のお子さんの時僕が担当だったから」
「……すみません」
「今、高宮が倒れて困るのは患者さん達だからね。
下屋の診てた患者さんまで引き受けようとか若いからって自分の体力過信して無理するとか絶対にダメ」
「…分かりました」
「昼食べたら少し仮眠しておいで。昨日のオンコールからほとんど休んでないって小松さんが心配してた。
外来の時間前に起こしに行くから」
「はい…」



ぽん、と頭を撫でられて涙腺が緩みそうになる。
あぁ疲れてるんだな、こんなことで泣きそうになるなんて。
でも…今、崩れる訳にはいかない。
表情筋を無理やり動かして笑って見せてから、頭を下げて病室へ向かう。
大丈夫、まだ大丈夫。



「サクラ」
「四宮?」
「アイツ、限界だろ」
「…うん、分かってる」
「何とかしてやれ」



そんな会話が後ろでされていたなんて、知る由もなかった。


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