コウノドリ

□焼肉デート
1ページ/2ページ


いつもいつもおうちデートは申し訳ないので定時で上がれたうえにオンコールからも外れた今日、外で待ち合わせることにした。
外食を持ちかけると大体『家で作るからいいよ』と言う彼女だが、今日は食べたいものがあるという。
それならば尚更、この機会を逃してはならない。

駅前に19時の約束だが、早めに着いてしまった。
病院で仕事をしても良かったのだが、下手に残っていると他の仕事に巻き込まれかねない。
普段はそれでも一向に構わないが、今日だけは…せっかく外食に乗り気になっている彼女が待っているのにドタキャンは避けたい。



「サクラ!」
「あ、桜月。お疲れ様」
「早いね、先にいると思わなかったよ」
「うん、ちょっと早く着いちゃって」
「仕事は?大丈夫?」
「今日はオンコールも外れてるから大丈夫」
「そっか、良かった」



会話をしながら自然と繋がれる指先。
最近、彼女は自宅圏内であっても手を繋ぐことを厭わなくなった。
吹っ切れたのか気にしなくなったのかは不明だが、堂々と一緒に歩けるのは嬉しい限りだ。



「そういえば今日は何食べに行く?」
「あー、そうそう。家で食べられなくはないけど、準備も後片付けも大変なものって考えて…」
「その考え方が桜月らしいね」
「焼肉とか、どうでしょう」
「あぁ、焼肉」
「大丈夫?最近食べに行った?」
「行ってないよ。それに、もし昨日食べに行ってたとしても桜月が行きたいって言うなら絶対に行く」
「いや、そこは別に無理しなくていいんだけど…」



困ったように笑う彼女。
分かってないなぁ。
桜月が行きたいって言うなら二日連続焼肉でも構わない。



「よし、じゃあ行こうか。どこか行きたいお店ある?」
「お昼休みに調べたんだけどこの辺で美味しいお店ね…こことかどうかな」
「いいよ、そこにしよう」
「即決…」
「うん?桜月が行きたいならそこでいいよ。
僕は桜月がいるなら何処でもいいから」
「……タラシめ」



恥ずかしそうに呟いた彼女が照れ隠しに歩き始めた。
本人に言ったら否定されるだろうけれど、本当に可愛い人だ。

駅から歩いて5分ほどでお目当ての焼肉店に着いた。
平日の夜ということもあり、多少の賑わいはあるが待ち時間もなく入店できた。
全て半個室で隣の席の会話も聞こえない。
駅の近くにこんな店があったなんて知らなかった。



「サクラ、何食べる?」
「んー?僕は何でもいいよ」
「またそういうことを言う…」
「下屋とか小松さん達と焼肉食べに来ても僕に選択権がないからね」
「あぁー…」
「そもそも僕、肉の部位をよく知らないしね」



パラパラとメニューを捲るが、何でもいい。
歯ごたえの違いくらいなら分かるけど、肉本来の味だとか匂いとか正直細かい違いは分からない。



「じゃあ…ハラミとタンと、ランプと…テールスープも欲しいなぁ」
「その辺りは桜月に任せるから好きなの頼みなよ」
「うーん……悩む」
「あ、これは分かる。サーロイン、A5ランクだって」
「そんな高いのいいよ…」
「でも美味しいんでしょ?」
「それはそうだけど…高いお肉は脂でお腹いっぱいになっちゃう」
「……桜月、それはたぶん僕の台詞」



メニューを見ながらあーでもないこーでもないと言い合う時間が楽しい。
産科メンバーで来るとまず下屋が片っ端から頼んで皆で手分けして焼く、そして下屋を筆頭にひたすらに食べて飲む、楽しいは楽しいけれど…こんな穏やかな時間はほとんどない。


_
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ