コウノドリ

□焼肉デート
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「何から焼く?」
「じゃあ、ランプ!あとタンも一緒に焼いちゃおう」
「あ、今日は僕がやるよ。いつもご飯作ってもらってるし」
「えー、別に気にしなくていいのに」
「焼肉は大体焼く専門だから気にしないで」
「ふふっ、じゃあお願いしようかな」



オンコールが入っていないなら、と久しぶりに二人でアルコールも頼む。
彼女も飲めない人ではないが、僕が飲まないなら自分も飲まない、と基本的にノンアルコールで付き合ってくれる。



「はい、焼けたよ」
「ん、ありがとー…いただきます!
………んーっ、美味しいっサクラも食べてみてよ、美味しい!」
「うん、いただきます。…うん、確かに」
「今日仕事頑張った甲斐があるわ…」



幸せそうに笑う桜月。
確かに家で焼肉となると準備も後片付けも時間がかかる。
手間暇を考えれば外食が一番というのは頷ける。



「ほら、タンも焼けたよ。ハラミも焼くからどんどん頼んでどんどん食べて」
「ん、ありがと」



こんなことで笑ってくれるなら、いくらでも連れて来るのに。
彼女がメニューとにらめっこする様子を眺めながら、ぼんやりとそんなことを考えた。



「………ねぇ、サクラ?」
「うん?」
「たまには外食するのもいいね」



へにゃ、と目尻を下げて笑う彼女。
その気の抜けた笑顔が何とも可愛くて。
半個室で良かった、そんな可愛い顔は他の人には見せたくない。



「やっぱりさっきのサーロイン頼もうか」
「ちょっとでいいよ?」
「あとはロースと骨付きカルビと…」
「え、大丈夫?そんなに食べられる?」
「シメは冷麺、と言いたいところだけど桜月は甘いものの方がいいかな」



たくさん食べて幸せそうな笑顔をもっと見せて欲しい。
それが何よりも僕の活力になるから。



「サクラ?」
「うん?」
「私のお皿にばっかりお肉乗せないで。サクラもちゃんと食べて」
「あぁ…ごめん、つい…」



彼女の皿にばかり肉を乗せていて、咎められて初めて気づく。
もう、と溜め息を吐いて皿にある肉を箸で掴んで目の前に差し出された。



「……?」
「そこで不思議そうに止まらないで食べてよ」
「あ、そういうことか。ごめんごめん」



人前でイチャイチャすることは恥ずかしがって嫌がる桜月がこんなことをするなんて珍しくて。
差し出された肉を口にすれば、箸がすぐに離れていく。



「せっかく美味しい物食べに来てるんだから、サクラもちゃんと食べてよ」
「ん、ありがとう」



桜月が幸せそうな顔で食べているだけで僕はお腹いっぱいになりそうだ、なんて言ったら君は一体どんな表情をするだろうか。


_


「お腹いっぱーい!」
「うーん、しばらく焼肉はいいかも」
「確かにー」



ほろ酔い加減の桜月は機嫌良さそうに僕の隣を歩く。
こうやって酔った彼女を見るのは本当に久しぶりな気がする。
絡められた指先がいつもより温かく感じるのはアルコールのおかげか。



「サーロイン、美味しかったね〜。
でも、あれより多かったら脂で胃もたれするかも」
「だからそれは僕の台詞だってば」
「あはは〜」



気の抜けた笑い声がどうにも可愛くて。
僕もアルコールが回っているのだろうか、今日はいつにも増して彼女の笑顔が可愛く映る。



「サクラ?」
「うん?」
「ご馳走でしたー!」
「桜月、さっきも聞いたよ」



ほろ酔いどころかだいぶ酔っているのかもしれない。
明日も仕事だというのに飲ませ過ぎたか。
彼女は元々お酒は強い方ではないのに、久しぶりに二人で外食をして楽しくなってしまい、僕もストップをかけそびれてしまった。



「…………………」
「桜月?」
「……眠い」
「え、桜月?大丈夫?」



忘れてた。酔いが回ると眠くなるんだった。
暗がりの中で顔をよく見れば、もう半分眠ったまま歩いている。
………まるで子どものようだ、なんて言ったら怒られるかもしれないな。



「ほら、もう少しだから頑張って」
「うぅ……サクラ〜…おんぶ〜……」



先程の言葉は訂正。
もう子どもに退化してしまったようだ。
それでもこんな姿も可愛いと思ってしまう辺り僕も相当酔っているのか、それとも彼女に心底惚れているのか。
………両方か。



「ほら、おいで?」
「お邪魔します」



彼女の前に背中を向けてしゃがみ込めば、何とも場違いな台詞と共に背中に柔らかな温もりを感じた。
いつも世話を焼いてくれる彼女だから、たまにはこういうのもいいだろう。



「……サクラ?」
「あれ……起きてた?」
「もう、寝る……サクラ、またご飯行こうね」
「…そうだね、また行こう」



本格的に眠りに落ちてしまった彼女の寝息を肩で感じながらゆっくりと帰路に着く。
家に着いたらお風呂に入れないとなぁ…ちゃんと起きてくれるだろうか、と少しの不安を胸に抱きながら。



*焼肉デート*
(…ほら、着いたよ?)
(んー……眠い…)
(目開けて、このまま寝られないでしょ)
(うぅ……シャワー浴びてくる)
(うん、行ってらっしゃい)


fin...


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