コウノドリ

□特効薬
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「桜月、大丈夫?」
「……くそぅ…せっかくの休みなのに…」
「そういう言葉使わないの」
「うぅ……」



そう、休み。しかも久しぶりの完全オフ。
僕の肩に寄りかかってうんうん唸っている桜月はオンコールでいつ病院から連絡が来るか不明だが、それまでは一緒に出かける予定だった。

だが、



「………生理痛ってどうにかならないのかな」
「ギネ(産科医)が言うとは思えない台詞だね」
「分かってるよ…」



普段はここまでひどくなることはないのだけれど、何回かに1回、とにかく動くことすらしんどいことがあるようで。
貧血も起こしているのか顔色も悪い。
横になったらどうかと勧めたが、起きた時が大惨事になりそうだから、と遠慮された。
生理の仕組みは理解しているが……仕組みを理解したところで彼女の辛さを本当のところまでは理解が及ばない。



「うぅ……」
「何か飲む?」
「…温かいココア」
「淹れてくるよ」
「ごめん…」
「謝ることないよ」



彼女用に買っておいたココアを淹れるため、そっと立ち上がりキッチンに行けば、支えをなくした彼女がゆっくりと背もたれに背中を預けるのが見えた。

今回は相当ひどいらしい。
普段は極力薬を使わない彼女が鎮痛剤を服用している姿を久しぶりに見た。



「いっそのこと生理止めるか…」
「前にそれでピル出したけど毎日飲まなかったよね」
「だって、あの頃は今ほど余裕なかったし…」
「まぁピルで生理止めるのも1つの手だけどさ」
「あとは…ミレーナ?」
「…うん、それもあるね」



他に何かあるのか、と言いたげな表情でこちらを見遣る彼女。
ギネのくせにこういうところは鈍いんだよなぁ。

用意したココアとコーヒーを手にリビングへ戻る。
カップを彼女に手渡せば、ありがとう、と受け取りそのまま口に運ぶ。
隣に腰を下ろして同じくコーヒーを口にした後で1つ息を吐く。



「薬も機械も使わずに1年くらい止める方法なら知ってるでしょ。
毎日診てるんだし」
「何で1年………あ、」
「分かった?」
「……いや、まぁ確かに止めるというか、止まるけど」
「けど?」



彼女が明らかに戸惑っているのが分かる。
当然と言えば当然かもしれない。



「勿論、僕が協力するけどね」
「それは当たり前だけど!」
「けど?」
「何か……、ムードに欠ける」
「…………それについては謝る。今度、ちゃんとするから」



これはこれで私達らしいからいいんだけど、と笑う桜月の顔色は少し落ち着いたようで、薬が効いたようだ。
これならもしオンコールがあっても対応できるかな。

今日は四宮が当番だからオンコールはめったなことではないと思うが、もし彼女の電話が鳴ったら僕が代わりに出るつもりだった。
桜月はそれを嫌がると思うけれど、僕にできるのはそれくらいだから。



「……サクラ」
「うん?」
「ちょっと寝てもいい…?」
「勿論」
「電話来たら、起こして……」



少し落ち着いたら眠気に襲われたようで、僕の肩に再度凭れかかってうとうとし始めた桜月に彼女専用のブランケットをかけてやる。
起きたら体調が落ち着いていますように、そう願わざるを得なかった。


*特効薬*
(ん……)
(あ、起きた?)
(うん…オンコールは……?)
(今のところ無し。体調は?)
(んー…さっきよりはマシかな…)
(それは何より)


fin...


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