コウノドリ

□寂しさの裏返し
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もうすぐ帰ってくる。
隠久ノ島へ行っている鴻鳥先生が、このペルソナに。

しばらく隠久ノ島に行ってくる、と言われた時には咄嗟に『行かないでください』と止めそうになった。
でも、それは言ってはいけない台詞。

もし自分がその立場だったら、
もし遠い将来、四宮先生や鴻鳥先生からサポートを頼まれたら、
間違いなく何を置いてでも彼らの元へ行くだろう。

だからこそ止めてはいけない。
きっと優しいあの人は困ったように笑うから。

でも、同じ職場で知り合って、毎日のように顔を合わせていたのに、急にこんなに会えなくなってしまうと、



「寂しいは寂しいんです」
「……何故、俺に言う」
「逆に加江や小松さん達に言えると思いますか?」
「………………無理だな」
「それに何かあったら四宮先生に、と仰せつかっていますので」



珍しく真剣な表情で相談がある、と言われて仕事終わりに駅前のカフェにやって来ていた。
話を聞いてみれば何のことはない、現在先輩のところへサポートに行っている同期の……目の前にいる後輩の、所謂彼氏の話で。

くだらないと一蹴しそうになったが、この目の前の後輩がこんな話を出すのも滅多にないこと。

半分興味本位で詳細を聞けば、どうやらあのバカ、何の相談もなしに隠久ノ島行きを決めたようで。
奴は奴なりに最近何か考え込んでいる節があったのは違いないが、それにしても同じ職場にいて事後報告とは……。
道理でサクラがしばらく隠久ノ島に行くと言った時に高宮が小さく驚嘆の声を漏らした訳だ。



「まぁ…いいんです、それはもう過ぎたことですし。
最近、鴻鳥先生何か悩んでいるみたいでしたし」
「…そうだな」



高宮が研修医の頃から見ているが、人の機微を察する能力に長けている、とは思う。
コイツの同期なら見逃してしまうような、ほんの少しの違和感にも気づいてサクラや俺に相談する。
そしてそれが気のせいでなかったことも何度かある。



「でも何か悔しいじゃないですか、自己解決して隠久ノ島行きを決めて。
なのでちょっと仕返しをしたくて!」
「……お前、キャラ変したか」



コイツ、こんな性格だったか?
それともサクラと付き合うようになって変わったのか、元々の性格が少し出て来たのか。
それは何でもいい。



「私は全然寂しくなかったですよ、鴻鳥先生がいなくても全然平気です、って態度を取れば少しは何か感じてくれ……ませんかね」
「さぁな」
「この際、どう思うかはどうでもいいです。
でもそういうスタンスでいきたいと思ってます」
「…で、俺にどうしろと」
「察しが良くて助かります」



あと2、3日中には帰ってくるであろうサクラに会った時、近くにいて欲しいと言う。
顔を見て話をしたらきっとサクラが何か察してしまうから、極力二人になることを避けたいから仕事を理由にして離れたいらしい。
それはそれで奴が何か察しそうな気もするが、それは置いておくとする。

現実問題、確かに人員が少ないことによるしわ寄せは少なからずこちらにも来ていて、そのことへの対価は支払ってもらう必要はある。



「まぁ、いいだろう」
「ありがとうございます!絶対に秘密にしてくださいね」



こうして『鴻鳥先生への仕返し大作戦(命名は高宮)』が決まった。


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