コウノドリ

□満足度
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「ねぇ、桜月」
「ん?」
「1個聞いてもいい?」
「改まって何、どうしたの」



隣で医学書に目を通している彼女は研修医の時から切磋琢磨してきた大切な同期。
自分とは正反対でいつでも冷静沈着で他人の機微に敏感で、あの四宮先生からも一目置かれている。
科を異動してからも彼女の話は届いて来る。
それは同期として誇らしくもあり、羨ましくもある。

救命に異動したからと言って同期の仲が切れる訳でもない。
お互いに仕事に余裕のある昼休みは屋上や食堂で一緒に食事をして他愛もない話に花を咲かせる。
……と言っても彼女は元々言葉数が多い方でもない。
私が一方的に話していると言っても間違いではない。
だからこそ聞いてみたかったことがある。




「……鴻鳥先生と、付き合ってるんだよ、ね?」
「ゲホッ……何をいきなり…!」



タイミングが悪かった。
コーヒーを口に運んだ時に聞くことじゃなかった。
盛大に噎せてしまった彼女の背中を擦りながらごめんねと謝る。

以前から、付き合い始めたと聞いた時から気になっていた。



「全然付き合ってる雰囲気ないから…」
「…仕事中なんだから当たり前でしょ。公私混同はしないよ」
「休みだってあんまりかぶらないって聞くし、二人で何か話してても仕事のことばっかりだって…」
「小松さん情報か…」



こめかみを押さえながら私の話を聞いている桜月。
仲の良い同期、しかも仕事仕事で彼氏の「か」の字も出てこなかったような彼女に付き合っている人ができたという。
相手は私も尊敬している、あの鴻鳥先生。
女心が分かっているとは思えない。
ちゃんと大事にしてもらっているのか、恋人らしいことはしているのか。
心配なのと興味があるのとが半々くらいだ。



「仕事中に仕事の話をするのは当たり前」
「それはそうなんだけど、恋人らしい甘〜い空気が流れない!って小松さんが言ってた」



深い溜め息の後で広げていた医学書を閉じて私の方へ向き直る桜月。



「あのね、加江。仕事中にそういうのはいらないから。
そもそも私も、鴻鳥先生もそういう…人前で甘い雰囲気?出すようなタイプじゃないのは加江がよく分かってると思うけど?」
「それは……そうだけど」
「それに仕事中にそんな空気出されたら周りがやりにくいでしょ」



彼女が腕時計を見るのにつられて時間を見れば昼休みが終わる10分前。
そろそろ戻る時間。
荷物を片付けて立ち上がった彼女がくるりと振り返った。



「大丈夫、ちゃんとサクラさんは大切にしてくれてるから。
じゃあ、またね」
「うん、また……って今…!」



気づいた時には白衣を翻して屋上から姿を消していた桜月。
そっか……あの子が大切にしてもらっているというのならば間違いはないんだろう。
………想像はできないけれど。


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