コウノドリ

□昼下り
1ページ/2ページ


「おう、お疲れ」
「お疲れ」
「お疲れ〜、珍しいじゃん。白川が昼に屋上来るの」



桜月と二人、情報交換がてら一緒にお昼を食べていたらもう一人の同期、白川が姿を現した。
しかも何かニヤけてる。
こういう時はろくなことを言わない。
……元々、仕事以外まともなことを言わない男ではあるけれど。



「なぁ、知ってるか?」
「何が?」
「鴻鳥先生、この前小児外科の看護師に告られたって」
「はっ……?!」



何でそんなことを桜月の前で言うのか。
桜月と鴻鳥先生が付き合っているのはコイツも知っているのに。
白川を睨みつけた後で桜月の様子を窺えば、特段気にした様子もなくコーヒーを口に運んでいる。



「知ってる。何なら私がいる時に『好きなんです!彼女がいるのは知ってますけど、気持ちだけ受け取ってください』って言ってきたから」
「マジか」
「えっ、えっ、それ鴻鳥先生は何て?!」
「『ごめんね、気持ちだけでもそれは受け取れない』って」
「そうだよね……ビックリした…」



本当に驚いた。
あの鴻鳥先生に告白する人がいるなんて。
でもその後に続いた桜月の言葉には更に衝撃を受けて開いた口が塞がらなかった。



「鴻鳥先生…最近、告白されること多いみたいよ」
「「えっ?!」」
「今言った小児外科の看護師、新生児科の新人の看護師、あと…何科の人だったか忘れたけど何かもう2人くらいいた気がする」
「ちょ、ちょっと何で桜月が知ってんの?」
「もし告白とかそういうことがあったら言ってくださいって言ってあるから」
「……すげぇな、お前」



別に、と缶コーヒーを煽る彼女は自嘲するように笑って見せた。
鴻鳥先生と付き合い始めてから感情表現が分かりやすくなったように感じるのは気のせいではないはず。



「いくらお断りしてても知らないままなのは嫌だから」
「でも、何で鴻鳥先生にモテ期……」
「さぁ…?」
「あー、そういえば何かうちの看護師が言ってた気がする」
「何を?!」



桜月よりも私の方が熱くなっている。
決して鴻鳥先生が好きだとか、そういうのではない。
鴻鳥先生よりも桜月の方が大切だし、彼女に悲しい思いをして欲しくないだけ。



「いや、何だっけ……そうだ、『鴻鳥先生って最近優しいよね』って」
「………鴻鳥先生が優しいのは、元からじゃない?」
「加江、たぶん他の科の人は知らないんだと思うよ」
「そうなの?」
「あと何だっけなー…『さりげなく重い物持ってくれたり扉開けて待ってくれたり、最近意外と紳士だよね』とか何とか」
「何してくれてんの、あの人……」
「私は先生のこと天然タラシだと思ってるから」



天然タラシ……話を聞く限り言い得て妙だと思う。
それにしても前の鴻鳥先生はそんなんじゃなかったはず。
確かに優しいは優しいけれど女心なんて分かってなかったし、そこまで気の利く人ではなかった気がする。
……私に対しての扱いは何ら変わりがないから比較のしようがないけれど。



「あれじゃね?」
「どれよ」
「高宮と付き合うようになって、ちょっと女の扱いが分かってきたとか」
「女の扱いってアンタね」



でも確かにそう考えるのが正解なのかもしれない。
私には分からないけれどあの顔がカッコいいという人もいるだろうし、現に桜月は鴻鳥先生と付き合って……



「桜月も雰囲気変わったよね?」
「何それ」
「それは思う、前より取っつきやすくなった」
「………白川にそう言われても嬉しくないわ」
「救命でも桜月のこと可愛いって言ってる先生いたよ?」



先週くらいにそんな話をした気がする。
昼休みに異性の好みがどうのって話になって、確かに桜月が可愛いって言ってた先生がいた。
まさか同期の名前が出てくるとは思っていなかったから驚いたのを覚えている。



「へぇ……それは、誰が、言ってたの?」


_
次へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ