コウノドリ

□オーバーワーク
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今日の診察は無事終了。
午前の診察が終わって昼休みも目一杯仮眠に当ててだいぶスッキリしたので午後もいける、と思ったのだけれども。
回診を経て外来があと数人で終わる、定時までもう少しというところで頭痛が出て来て頭がガンガンする。
診察が終わっても立ち上がれなくて、カルテ整理したいからと真弓さんには先に戻ってもらった。
今日は溜めてしまった書類や目を通しておきたい論文を片付けようと思っていたけれど無理そうだ。
頭痛が落ち着いたら適当に理由をつけて帰ることにしよう、なんて思っていた。



「高宮」
「えっ、あ、お疲れ様です。すみません、ボーッとしてました。何かありましたか?」



不意に診察室の裏手側の扉が開けられて、俯き加減だった顔を勢いよく上げれば頭がクラクラした。
これは相当マズい。



「何かありました、ってそれこっちの台詞」
「…鴻鳥先生?」
「体調、悪いだろ」
「………何で鴻鳥先生にはバレちゃうかなぁ」



気のせいだと思っているうちは良かった。
けれどこうして指摘されると、じわりじわりと身体のあちこちが悲鳴を上げ始める。



「熱は?」
「ありません……頭痛と倦怠感がひどいです」
「着替えてきて、帰るよ」
「はい……」



元より帰るつもりだったけれど、珍しく有無を言わせない彼の言い方が引っかかる。
でもその裏の感情を読み取るのは今の私には難しくて、言われるままに着替えをして押し込まれるようにタクシーに乗せられて帰路についていた。



「ほら、大丈夫?」
「すみません…」
「全く…すぐ無理するんだから。
若いからって自分の体力過信しちゃダメだって、いつも言ってるよ」



手荒く上着を脱がされて、鴻鳥先生の部屋の広いベッドに寝かせられる。
目を開けているのも辛くて瞼を閉じれば温かい物が、きっとサクラさんの掌が瞼から額にかけて乗せられた。
温かくて気持ちがいい。



「うん、確かに熱はなさそうだね」
「流石に…熱があったら自己申告してます。
風邪なんか患者さんに移したら困りますし……きっと睡眠不足と疲れが出ただけです…」
「昨日のオンコール、忙しかったって言ってたしね」
「サクラさん……」
「うん?」



サラサラと髪を弄(もてあそ)ぶようにしながら梳かれる感覚が何とも心地良くて、このまま微睡みに意識を委ねてしまいそうになる。
でもその前に、



「ごめん、なさい」
「何が?」
「迷惑、かけちゃって……」
「別に迷惑だとは思ってないよ。仕事は仕事でちゃんと終わらせたし、桜月が頑張り屋なのは知ってるし。でもさ…」
「でも…?」
「桜月はもう少し周りを頼ることを覚えてもいいかな」
「そう、ですね……」
「産科はチームなんだから、辛い時は言ってくれれば必ず誰かが助けるから」
「はい……サクラ、さん…」
「うん?」



もうそろそろ限界。
でも聞いておきたいことが1つだけある。



「何で…いつ……分かったんです、か…?」



気をつけていたのに。
誰にも気づかれないように細心の注意を払って、寝不足も頭痛も倦怠感もとにかく表に出ないように努めていつも通りを徹底していたのに。
どうして彼には気づかれてしまったのだろうか。
答えを知りたかったけれど、頭を撫でられる感覚が心地良くて、サクラさんからの返答の前に意識が途切れてしまった。


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