コウノドリ
□それは初めての感触
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この一週間、見事なまでのすれ違い生活だった。
研修と称して彼女の同期の病院にピンチヒッターで3日間出張していて不在。
彼女が戻って来る日から僕が2泊3日で学会があり不在。
学会から戻れば会えるかと思ったら、何故か姿が見えなくて。
聞いた話によるともう一日だけ、と先日の病院に行っているらしい。
「はぁ………」
同じ病院、しかも同じ科で働いているというのにここまで会えなかったのは初めてのことで。
吐きたくもない溜め息が漏れる。
こんなに女々しい男だっただろうか。
今日、僕は当直明けで彼女はオンコール。
普段ならばどちらかの部屋で過ごすところだけれども、最近の彼女の不規則な生活を考えると疲れているだろうかと心配になり、連絡をするのも気が引ける。
……今日はこのモヤモヤをピアノにぶつけるのも悪くない。
「ん……?」
部屋のどこかでスマホが震えている。
そういえば帰って来てからマナーモードを解除していなかった。
ジャケットの胸ポケットを探ればお目当ての物。
そして表示されていたのは、
「もしもし、桜月?」
『あ…お疲れ様です』
「うん、お疲れ。何か…久しぶりだね」
『そう…ですね』
「……」
『…………』
久しぶりで会話の仕方も忘れてしまったようだ。
何とも言えない沈黙が流れる。
そんな時、電話口の彼女の背後から微かに車の走行音らしき音が聞こえた。
「…もしかして外にいる?」
『え、あ…外と言えば外です』
「誰かと約束?」
『そういうのではなくて……散歩、ですかね』
「そこで待ってて」
『え?』
「今から行くから、どこにいるか教えて」
声を聞いたら会いたくなる。
そう思ってメールで連絡はしたが、電話はかけなかった。
スマホを耳に当てたまま、先程投げ捨てたジャケットを取って玄関へと向かう。
『え、どこって……』
「うん、今どこ?」
チェーンを外すのもまどろっこしい。
早く、会いたい。
「ここに、います……」
「………桜月」
ドアを開ければ、目の前に彼女が佇んでいた。
突然開いたドアに驚いたのか一瞬、目を丸くしたが、すぐに困ったように眉を下げて笑う。
僕はと言えば、まさか玄関前に彼女がいるなんて思わなくてドアを開けたまま固まってしまった。
「おはようございます。
……すみません、驚かせちゃって」
「……ここ一週間で一番の驚きかも」
「お疲れだったり、寝てたりしたら帰ろうと思ってたんですけど…」
「けど…?」
通話終了をタップして、スマホをバッグにしまう桜月。
耳には不通音が届いた。
「やっぱり、声を聞いたら会いたくなっちゃっいますね」
苦笑しながら僕と同じことを言うもんだから、もう愛おしさが止められない。
気づいた時には彼女を部屋に引き込んで腕の中に閉じ込めていた。
「……どうしよう」
「どうか、しましたか………?」
「うちの子が可愛すぎて死にそう」
「何ですか、それ」
可愛くないです、といつもの台詞を笑いながら言うから。
あぁ、やっと日常が戻って来た。
そんな気がした。
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