コウノドリ

□その笑顔は反則だから
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最近彼女はよく笑うようになった。
よく、というのは語弊があるのかもしれない。
それでも以前、それこそ後期研修医として彼女がペルソナに来た時より表情が柔らかくなった感じは間違いなくある。

愛想を振りまくことが大事だとは思わない。
ただ、僕らの仕事は対人間。
しかもこのペルソナで出産するとなれば、1年近く一人の妊婦さんと付き合うことになる。
より良い人間関係を築くことも大切だと僕は思う。

それにしても、だ。



「可愛くて悪い虫がつかないか心配」
「……俺はお前の頭の方が心配だ」
「だってこの前救命で高宮が可愛いって言ってる先生がいたって下屋が言ってたんだよ?
元々可愛いのに他の人に笑顔見せるようになったら高宮の可愛さが知れ渡っちゃうよ」
「…………」
「勿論、雰囲気が柔らかくなったのはいいことだと思うよ。患者さんからの評判もいいって小松さんも言ってたし」
「……サクラ」
「うん?」
「少し黙れ」
「四宮くらいしかこんなこと話せないからもう少し聞いてよ」



桜月を知っていて、こんな話を茶化さずに聞いてくれるのはきっと四宮くらい。
茶化すことはないが呆れてはいるのは分かっている。
それでも胸中を語らずにはいられない。



「いや、笑顔が可愛いのは研修医の時…というか付き合う前から知ってたよ。
赤ちゃん取り上げる時とかすごく幸せそうに笑ってるの見たし、赤ちゃんを見つめる時の表情も穏やかで本人は気づいてないけど頬が緩んでたし」
「知らん」
「何で知らないの?……いや、知ってたら四宮も桜月のこと好きになるか…」
「………付き合いきれん」



いつものジャムパンと牛乳を食べ終えた四宮はさっと立ち上がって医局を出て行ってしまった。

それにしても困った。
本人が無自覚だし、そもそも笑顔を控えるようにと言うのもおかしな話だ。



「あの、鴻鳥先生?」
「うん?あれ、高宮?どうかした?」
「あ……えーと、四宮先生に鴻鳥先生がおかしくなってるからどうにかして来いと言われまして……」
「……ごめん」



四宮のヤツ……本人に言えないことだと分かってるのに本人連れて来るとは…。
どう言い訳をしようか。



「大したことはないんだ、もう大丈夫」
「本当ですか…?」



気遣わしげな表情の桜月。
何とも言えない申し訳なさと心苦しさが募る。
僕が勝手に気づいて勝手に悶々としているだけなのだから、彼女がこんな表情をする必要はないのに。



「…今日、仕事終わってから時間ある?」
「あ、はい。今日は大丈夫です」
「じゃあ、部屋においで。その時話すから」
「分かりました、じゃあまた後で」



ふわり、と笑う彼女に仕事中だというのに心臓が跳ねた。
…………これはなかなか重症だ。

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