コウノドリ

□その笑顔は反則だから
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「お邪魔します」
「どうぞ」



仕事が終わって、外食をしてから部屋に帰宅。
何度も来ているのにその度に挨拶をする、律儀な性格だ。
彼女の定位置、リビングのソファの左端にちょこんと座る。
あぁやっぱり可愛い、と眺めていたら不思議そうに僕を見つめながら首を傾げる桜月。
見つめ過ぎたのかもしれない。



「サクラさん…?何か顔についてますか?」
「ん、いや…可愛いなと思って見てただけ」
「またそういうことを……サクラさん、一回眼科行った方がいいですよ」
「大丈夫、視力はいいから」



笑いながら言えば、もう…と困ったように笑う桜月。
その顔すら愛おしいと思う辺り、僕はもう末期なのかもしれない。



「その顔、」
「えっ?」
「笑顔が増えたよね、最近」
「そう、ですか…?」
「患者さんからも評判いいみたいだし」
「うーん…?」



彼女はやはり無自覚なようで、それ故にたちが悪い。
コーヒーを淹れてから隣に座って肩を抱き寄せれば、一瞬身を固くして息を吐く桜月。
そろそろこういうことには慣れて欲しいものだけれども、この初々しい反応も僕の頬を緩ませる。



「笑顔も可愛いのは知ってたけど、それを皆に知られるのはちょっと嫌かなぁって話を四宮にしてたんだよね」
「………本当に、一度眼科受診をお勧めしますよ、サクラさん」
「僕だけに笑って、とは言わないけどせめて他の男には控えて欲しいかな」



少し身体を離して顔を覗き込みながら言えば、ちょっと困ったような顔。
それはそうだ。
こんなこと言われても困るだろう。



「私に笑顔が増えたというなら、それはサクラさんの影響です」
「うん?」
「サクラさんが、たくさん笑いかけてくれるからだと思いますよ?」



笑顔は伝染るなんて言いますし、という彼女は穏やかな表情で。
もし彼女の言うとおりだとすれば、彼女を変えたのは僕。
それが事実ならば何て幸せなことだろう。



「そう、なのかな」
「そうなんですよ?」



穏やかな表情のまま、花が咲いたように笑う桜月。
蜜蜂が美しい花に誘われるように、その笑顔にそっと口付けた。
途端に頬を朱に染める彼女。



「その笑顔は反則だから」
「そんなこと言われてましても……」
「キスしたくなるに決まってるじゃない」
「もう、知りませんっ」



*その笑顔は反則だから*
(やっぱり他の人、特に男の人の前で笑っちゃダメ)
(そんな難しいこと言わないでください)
(じゃなきゃマスクして)
(……サクラさん、怒りますよ)
(怒っても可愛いからダメ)
(もうっ!)


fin...


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