コウノドリ

□ありきたりな幸せ
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「………遅い、な」
「んー?あぁ、桜月先生?
確かにもう夜勤始まる5分前だしねぇ」



真面目な彼女がこれまで遅刻したことはない。
それどころか勤務開始の30分前には医局にいて病棟を回ったりお産の進行状況を確認したりしている。

その彼女が、だ。
5分前になっても姿を現さないのは何かあったのではないか。
単に今日はギリギリになっているだけならいいが。
念の為、彼女のスマホに電話を入れるが『おかけになった電話番号は電源が入っていないか電波の届かないところにあるためかかりません』という無機質なアナウンスが流れるだけだった。



「…出ない」
「どうかしたのか」
「桜月先生がまだ来てないのよ」
「……高宮が?」



流石の四宮も怪訝そうな顔をする。
それだけ彼女が遅刻をするということは珍しいことで。
そうこうしている内に夜勤開始の時間となってしまった。



「はい、産科です。
あ、加瀬先生?はい、鴻鳥先生ならここに……」



その時、産科の電話が鳴り響いた。
加瀬先生がどうして、僕に電話なんて。
胸騒ぎがする。

受話器を受け取り、耳に当てる。



「代わりました、鴻鳥です」
『加瀬だ、落ち着いて聞いてくれ。
今、交通外傷で搬送されてくる患者、ギネ(産婦人科)の高宮らしい』
「えっ……」
『鴻鳥先生、こっち来れるか。3分後には着くぞ』
「っ、行きます」



震える手で受話器を置く。
桜月が、交通外傷って……ひどい怪我をしているのだろうか。
いや、軽い怪我なのかもしれない。
……それならわざわざ救急車が到着する前に、加瀬先生が……あんなに緊迫した声で電話を入れるだろうか。



「ねぇ、加瀬先生何だって?!」
「っ、高宮が、交通外傷で、搬送されてくるそうです」
「なっ…サクラ、何があった?」
「ごめん、四宮。もうペルソナに着くって…こっち頼んでもいいか」
「早く行け!」



四宮の大声なんていつぶりだろう、なんて場違いなことを思いながら救命に向かって走り出した。

























「っ、下屋……」
「鴻鳥先生!」



救命に着くと反対側から走って来たモスグリーンのスクラブを着た医師と鉢合わせた。
ちょうど救急車が着いたところでストレッチャーに乗せられて下りて来たのは、



「桜月…!」
「どうして…」



救急車から下りて来た救急隊員からの情報を総合すると、トラックの積み荷の工業用の6mの鉄パイプが崩れ、信号待ちしていた彼女と下校途中の小学生の集団の上に降ってきたようで。
小学生を庇った彼女が鉄パイプの下敷きになった、と。
幸い小学生は彼女が突き飛ばした際に転んだ時にできた擦り傷程度で済んだが、彼女は……


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