コウノドリ

□貴女らしく私らしく
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そんなやり取りがあったのが二週間前のこと。
珍しくサクラさんと日勤のシフトがかぶり、二人共オンコールも外れている。
夕飯一緒に食べよう、というお誘いを断る理由もなく。
駅近くのカジュアルレストランに足を運んだ。



「桜月はドリンクはどうする?」
「あー……烏龍茶でお願いします」
「うん?体調悪い?」
「いえ、約束があるので」
「約束?……あぁ、田中さんね」
「はい、もし搬送されるような場合はオンコールじゃなくても呼んでもらうようにお願いしてあります」
「無事に生まれるといいね」
「私の禁酒が無駄な努力で済むのが一番です」



お酒にお付き合いできないのは申し訳ないけれど、万が一を考えると無事に生まれたと連絡が入るまでお酒は控えておくべきだろう。
約束したとは言え、出番がないのが一番。



「お待たせしました」



もう彼女は正期産。
いつ生まれてもおかしくはない、なんて思考は店員の声によって遮られた。
サクラさんの前にはリブロースステーキ、私の前にはミスジステーキが置かれ、鉄板の上で美味しそうな音を立てている。
いただきます、と手を合わせる。
美味しそうな料理、そして何より久しぶりのサクラさんと二人での食事。

主に小松さんが音頭を取って産科だけでなく新生児科も合わせて食事に行ったり飲み会を開かれたりするので、皆で居酒屋や小松さんが好きな豚足料理専門店に行くことはあったが、二人きりというのはいつぶりだろう。
下手すると一ヶ月はこういう時間はなかったはず。
頬が緩むのを止められない。



「美味しい?」
「え、あっ、はい。とっても」
「うん、いい顔してる」
「お肉が美味しいのもありますけど…」
「うん?」
「サクラさんと二人で食事するのが久しぶりだなぁと思ったら、何だか嬉しくて」
「……桜月、飲んでないよね?」
「飲んでませんけど…?」



ちょっとそれ反則、と口元を隠すサクラさん。
何かいけないことを言っただろうか。
心なしか頬も赤い気がする。



「サクラさん?」
「本当に……急に不意打ちするから気が抜けないよ」
「?」



言葉の意味を図りかねて首を傾げるが気にしなくていいよ、と言われてしまう。
おそらくこれ以上突っ込んで聞いたとしても求めている答えは返って来ないだろう。
それならまぁいいか。
折角の料理、冷めてしまう前に堪能しよう。




























「はい、コーヒー」
「すみません、ありがとうございます」



食事に行ったり出かけたりした後は大体サクラさんの部屋にお邪魔することが多い。
病院に近いから、という理由が大きいのだけれどもおそらく比率にしたら8:2くらいでサクラさんの部屋に来ている気がする。
コーヒーを口に運びながら今度、私の部屋にお誘いしようかな、なんて考えていたら不意に顔を覗き込まれる。



「何、考えてたの?」
「え……サクラさんの部屋にお邪魔してばかりなので、今度は私の部屋にお誘いしようかな、と…」
「そんなこと、気にしなくていいのに」



フッ、と笑ったサクラさんが私の手からカップを攫ってローテーブルに置いた。
その動きを目で追った後、再び視線をサクラさんに戻せば肩に手を添えられて、そっと口付けられた。
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