コウノドリ

□夜空に願いを込めて
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《四宮が当直代わってくれたから今日のお祭り一緒に行こう、二人でね》と届いていたメールを開いたのは当直明けで昼過ぎに起きた午後のことだった。
寝起きで読んだメールは一度では頭に入って来ず、シャワーを浴びて遅めの昼食を取って、食後のコーヒーを淹れたところでもう一度メールを開いて内容を確認する。



「四宮先生が……お祭り、えっ?」



添付されていた画像を拡大表示すれば、今日の日付で隣市で開催されるというお祭りの案内ポスター。
前に産科、新生児科、救命科と同期の加江が皆を誘って病院近くのお祭りに行った日。
当直だった私は病院に居残りで、見かねた四宮先生が当直を代わると言ってくれた。
その時は次の機会にお願いします、と頼んだが本当に代わってくれたようだ。
しかも今回はサクラさんと二人で行けそうで。
頬が緩むのが止められない。



「……そういえば、」



夏祭りで思い出した、クローゼットの奥にしまい込んでいた物の存在。
きっと自分は使うことはないだろうと思っていて、すっかり忘れていた。
その後で届いたメールには約束の時間は18時、最寄り駅に集合となっている。
時計を見れば15時半、今から準備すれば十分間に合うはず。
了解の旨を返信して、気合いを入れ直す。




























「すみません、お待たせしました…!」
「あ、お疲れ……」
「明けで私の方が時間あるのに、本当にすみません…」
「いや、全然。僕も今来たところだから」



余裕があったはずなのに、家を出る時間がギリギリになってしまって。
慣れない格好で走ることもできず、5分前に着いておくつもりが時間ちょうどになってしまった。
大体、いつもサクラさんは約束の5分前には待ち合わせ場所にいるので、きっと多少は待たせてしまったのだろう。



「……浴衣、」
「あっ…はい。姉が『もう着ないから』と少し前に持って来てくれて…折角お祭りなので着てみました」



兄と姉、二人とも少し年が離れているからか何かと気にかけてくれて。
季節が夏に移り変わる前に遊びに来た姉が置いていったもの。
存在を思い出したからには、折角なので出してみれば濃紺の生地に大きな朝顔の模様が描かれている。
着る機会がないからと一度は断ったが、ちょっと渋いけど似合うし着ることがあるかもしれないから、と半ば強引に置いていかれた。
それでもこうなってみると機会はあって、着用した姿を姉に送ってみると《やっぱり似合うよ、持っていって正解!》と返信があり、嬉しそうな姉の声が聞こえた気がした。
浴衣と一緒に簪と草履風のサンダルまで用意されていて、本当に何から何まで有り難い限りだ。

ふと見れば、目の前のサクラさんと視線が合わない。
というより明らかに目線が逸らされている。
打ち上げ花火は病院の屋上から一緒に見たが、お祭りに出かけるのは初めてで浮かれていた自覚はある。
それでも浮かれ過ぎてしまっただろうか。
一人で張り切って浴衣なんて着て、



「……参ったな」
「え、?」



ポツリと呟くように言葉を発したサクラさん。
あまりに小さな呟きでその内容までは耳に入って来なかった。
思わず聞き返せば手首を掴まれて、サクラさんが耳元に唇を寄せる。



「可愛すぎて直視できないかも」
「………っ、可愛くない、です…!」



反射的に反論すればアハハッと楽しそうに笑いながらサクラさんの手が掴まれていた手首から指先へと移っていき、そのまま指を絡められた。
手を繋ぐなんて、久しぶり。



「人が多いみたいだから、ね」


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