コウノドリ

□一日三回
1ページ/1ページ


彼はキス魔、だと思う。
部屋で一緒に過ごしていると隙あらば頬に唇に、口付けをする。
初めのうちはされる度に恥ずかしくて、それこそ顔から火が出るかと思ったくらいだったけれど、最近それに慣れつつある自分がいて……慣れとは怖いものだ。

この前はライブハウスの控室でBABYの姿でも同じようなことをするし、何ならBABYの方が激し………。



「いやいや……」
「うん?どうかした?」
「いえ、何でも、っ……」



邪な考えに首を振っていれば、ピアノを弾いていた彼が私の呟きを聞いてソファまで戻ってきた。
しまった、ピアノに没頭しているように見えて実は意識はしっかりこちらを向いているのだった。
隣に座ったと思ったら、またしてもキス。



「顔、少し赤いよ。酔った?」
「いえ……大丈夫です、」
「そう?」



久しぶりにオンコールもない休日で、サクラさんは日勤終わり。
普段はあまり飲まないお酒を二人で飲んでほろ酔い加減でサクラさんの部屋に来ていた。
ピアノが聞きたいとお願いすれば数あるBABYの曲の中でも私の好きな曲をチョイスして弾いてくれていた。
折角のサクラさんのピアノなのに余計なことばかり考えてしまって頭に入って来ないなんて。



「何考えてたの?」
「サクラさん……」
「うん?」
「一日三回までにしましょう」
「何を?」
「……キスを」



思い切って口にすれば鳩が豆鉄砲を喰らったような表情。
それはそうだ。
こんなこと、私も言うつもりはなかった。
それでも言わなければいけない、そう思ったのは、



「最近、サクラさん病院でもしようとするじゃないですか」
「それは……うん、否定しない」
「公私混同はしたくありません」
「………どうしても一日三回?」
「回数決めないと際限なくしそうじゃないですか」
「うーん……分かった」



かなり渋々のようだけれども分かってくれて良かった。

正直、キスは嫌いじゃない。
寧ろサクラさんとのキスは好き。
でもTPOを考えて欲しい。



「その分、一回の内容を濃厚にしようね」
「えっ、……んっ」



顎を掬われたと思ったらまた口付けられた。
これまでとは違う、一瞬で離れる触れ合うだけのキスではなくて。
角度を変えながら何度も口付けられ、酸素を求めて思わず唇を開けば隙間から舌が割り入れられる。
ぬるりとした粘膜の感覚に身体がびくりと反応してしまう。
気づけば舌を引き出されて混ざり合うように、溶け合うように絡められる。
耳を塞がれて水音がダイレクトに脳に届く。



「っ、……」
「まだ、だよ?」
「……!」



唇を離さずにそう告げたサクラさん。
翻弄されてすぐに限界を迎えてしまうというのに、まだ続くの?
そんな考えを抱けば内心を察しているのかいないのか、



「ふ…っ……」



フレンチキスは触れ合うだけのキスと言われてるけどあれは誤用なんだよ、と前に言われたことが何故か頭を過ぎった。
粘膜同士の接触、もうこれはキスというレベルじゃない。

サクラさんの唇に、舌に、翻弄されて



「も、むりっ……」
「ふ……もうギブアップ?」
「無理……ですっ、」



身体に力が入らない。
サクラさんの胸に頭を預ければ、頭上から楽しそうな笑い声。
表情すらも想像できてしまうのは何故だろうか。



「これを、一日三回ね」
「えっ……」
「回数減らすんだから質を上げないと」
「っ、無理ですっ」
「じゃあ回数はこのままかな」
「〜〜〜〜っ!」



あんなキスを日に三回もしたら身がもたない。
きっと彼にはそれが分かっているのだ。
分かっていて言っているのだから本当にたちが悪い。



「び、病院では止めてくださいっ」
「分かった分かった、そこは約束するよ」
「用法・容量は守ってください!」
「アハハッ」


*キスは一日三回まで*
(僕としては何回でもフレンチキスしたいけど)
(本当に無理です!)
(うーん……嫌?)
(嫌……とは言ってません)
(じゃあもう一回しようか、次はベッドでね)


fin...


次の章へ
前の章へ

[戻る]
[TOPへ]

[しおり]






カスタマイズ