コウノドリ
□翻弄
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「誰か一緒に今日のコンサート行ってくれない〜?」
「私、夜勤なのでごめんなさーい」
「私も行きたいけど当直なんですよー!」
「友達と食事に行く約束があって……」
「桜月先生、ダメかなぁ?」
「え……オンコールですが予定はないので大丈夫なんですけど、山下ジョージですか……」
昼休み、小松さんのお誘いに皆が各々の理由で断る中で声をかけられた。(遊びに来ていた加江も当直だという)
オンコールではあるけれど予定は入っていない。
これがBABYのライブというのならば二つ返事で行くところだけれども……医局内にいた彼にチラリと視線を移せばこの会話を聞いてはいると思うが反応が見られない。
「鴻鳥先生ー、桜月先生借りて行くよー!」
「何で僕に断るんですか……どのみち僕、今日当直なんで止められないですし」
「じゃあ決まりね!」
「えっ、あ……はい。よろしくお願いします」
断る理由がすっかりなくなってしまい、チケットを渡される。
行ってもいいのだろうか。
ちょっとお手洗いに、と席を外してスマホを取り出す。
彼にこんなことを聞くのは筋違いなのかもしれないけれど《行ってもいいですか?》とメールを送る。
レスの遅い彼にしては反応が早く、まるでメールが届くのを知っていたかのようにすぐに返信が来た。
《たまには僕以外のピアノも楽しいと思うよ。
何かあったら呼び戻すけど、それまでは楽しんでおいで》
少し嫉妬してくれるかと淡い期待をしなかった訳でもない。
けれど、大人な彼がそんな素振りを見せるはずもなく。
あまり、というか全く興味はないけれども今夜はコンサートに行くことが決定した。
「じゃあお疲れ様ー!」
「お疲れ様でした」
「桜月先生、行こっか!」
「はい、お願いします」
緊急搬送などに足止めされることもなく病院を出る。
行きたくないとは言わないけれど、特に興味がある訳でもないのにコンサートに行ってもいいのだろうか。
楽しんでおいで、という彼の言葉を額面通りに受け取っていいのか。
昼過ぎからぐるぐると頭の中でそんなことばかり考えていた。
「桜月先生?どした?大丈夫?」
「あ……すみません、ちょっとぼーっとしてました」
「鴻鳥先生のこと?コンサート始まれば忘れちゃうって!」
「そう、ですかね」
「そうそう、楽しまないとね〜」
言われてみればその通り。
吾郎くん曰く、有名なピアニストらしい。
コンサートのチケットもなかなか取れないと言っていた。
折角の機会、楽しまなければ損だ。
そんなことを思っていたら、開演時間となり山下ジョージがステージに姿を現した。
隣に座る小松さんの空気が変わった気がした。
そういえば前にサクラさんから小松さんと山下ジョージは繋がりがあることを聞いたことがあったのを今頃になって思い出した。
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