コウノドリ

□自慢の彼女
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届け物をしてほしい、なんて仕事においては抜け目のない彼からの珍しいお願い。
私が休みなのを承知で頼んで来ているのだし、時間があればお昼を一緒に食べよう、なんて言われたら断る理由もなく。
頼まれた本と今朝渡しそびれたお弁当を持って彼の勤め先まで散歩がてらのんびり歩いてやって来た。

食堂の前に12:20の待ち合わせだったけれど、少し早めに着いてしまった。
私は急ぎの用事がある訳でもないし、少し待つくらい何てことない。
……あれ、食堂前で待ち合わせってことはもしかして食堂で何か食べる予定だった?
しまった、お弁当持って来ちゃった。



「あれ……もしかして、高宮さん?」
「え、あ……えーと、えーと……白川さん?」
「やっぱり高宮さん、こんにちは。
うわ、こんなとこで会うなんて偶然ですね。どなたかのお見舞いですか?それとも何か診察?」
「あ……いえ、ちょっと届け物をしに……」
「届け物?」



少し前に食事会と称して同僚に連行された合コンで同席した白川さん。
そういえばペルソナのお医者さんだと言っていた……まさか会うとは思っていなかったけれど。
この人に連絡先交換してほしいって言われたのを思い出した……いや、あの時点で彼氏がいるからと断ったから何も問題はないはずなのにこんなに後ろめたい気持ちになるのは何故だろう。



「白川〜!病院で何、ナンパしてんだよ!」
「ってぇな、下屋!ナンパじゃねぇよ!」
「って、桜月さんじゃないですか。
こんにちは〜……あ、もしかして鴻鳥先生のこと待ってます?」
「下屋先生、こんにちは」



白川さんの背中を叩いたのは見知った顔。
この二人、仲が良いのかな。
もしかして付き合ってるとか……いや、下屋先生は彼氏いないって言っていたし、もしも付き合ってるなら白川さんは合コンなんて来ないか。

下屋先生から出て来た『鴻鳥先生』という単語に引っかかったのか、白川さんが不思議そうな顔をしている。
……サクラが彼氏とは言ってないからね。
そんな表情をするのも当たり前か。



「何で鴻鳥先生?」
「あー、アンタ知らないのか」
「ごめんごめん、お待たせ〜」
「サクラ!お疲れ様〜……」
「……サクラ?」



少し疲れたような顔で軽く手を振りながらこちらに向かって来るサクラを見つけて、思わず笑みが零れるのが分かる。

……思えば仕事終わりのサクラと会うことはあっても、仕事中のサクラに会うのは初めてで。
つまるところ、白衣姿を見るのは初めてな訳で。

萌え、という言葉の意味をこれまで私は本当には理解していなかったのかもしれない。
白衣の下の、スクラブと言ってたかな。
隙間から覗く鎖骨がカッコいい、……そんなこと誰にも言えない。



「……桜月?」
「はっ!ごめん……これ、頼まれてた本」
「休みなのにごめんね」
「あと、朝渡しそびれたお弁当持って来たんだけど……もしかして食堂で食べる予定だった?」
「え、お弁当?本当に?」
「えー!鴻鳥先生、手づくりのお弁当いいな〜!」
「あげないよ、下屋」



本来の目的を忘れるところだった。
頼まれていた本と、もしかしたらいらなかったかもしれないお弁当をそっと差し出せば嘘偽りない笑顔で受け取ってくれた。



「……あの、!」
「何、白川。うるさいな」
「その、高宮さんの彼氏ってもしかして……!」
「あ、」
「うん、僕だよ」
「このラブラブのやり取り見てて、もしかしても何も……」
「下屋先生、別にラブラブって訳では……」



白川さんの存在をすっかり忘れてた。
どれもこれもサクラの白衣姿がカッコいいのが悪いんだ。…………後で写真撮ろう。


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