コウノドリ

□自慢の彼女
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お医者さんという仕事がとにかく忙しいことは知っている。
立ち話している時間が勿体ないと、食堂の中へ。
せっかくだから温かい物を食べて、とお弁当を引き取ろうとしたら、そんな勿体ないことできないと保冷バッグはサクラの手の中のまま。
きっと空になるまで私の元へ返って来ないと判断し、仕方なくカレーを注文。
ニコニコ、というよりもニヤニヤ、という表現がぴったりな顔の下屋先生とやけに静かな白川さん……いや、白川先生。



「いいなぁ、手づくりのお弁当〜」
「大したものは入れてませんよ……?」
「お弁当を誰かが作ってくれるってだけで羨ましいんですよ!」
「だからあげないってば」
「鴻鳥先生のけちー!」



この調子で二人のやり取りを待っていたらカレーが冷めてしまいそうだなと判断。
いただきます、と手を合わせれば隣のサクラもニコニコしながら手を合わせて包みを開ける。
こんな状況になるなら、もっと気合いを入れて彩り良く作れば良かった。
いつもの調子で見た目が茶色い地味なお弁当……あぁ、恥ずかしい。



「あ、卵焼き」
「だってサクラ、お弁当には絶対卵焼き入れてって前に言ってたじゃない」
「だって桜月の卵焼き美味しいじゃない」
「何か……ご馳走さまなんですけど……」
「えっ?」
「白川なんて憧れの保育士さんが鴻鳥先生の彼女でショック受けまくってるし」
「えっ?えっ?」
「彼氏がいるのは聞いてましたけど、まさか鴻鳥先生だなんて……」



ラーメンを目の前に、手を付ける様子の見られない白川先生。
その姿は視界に入っていたけれど、まさかそんな理由だったなんて。

ん?……憧れの保育士さん?



「合コンの次の日、桜月さんのことをめちゃめちゃテンション高く話してたんですよ、コイツ」
「ばっ、下屋!余計なこと言うな!」
「彼氏がいてもバレなきゃいい、連絡先交換しようって言われて、桜月さん何て言ったんです?」
「えぇー……?覚えてないですよ」
「『バレるバレないじゃなくて裏切ることになるからしない』って……俺、あの言葉に感動して……」
「感動……」
「そんな風に相手のことを思えるのっていいな、と思って」
「……はぁ」



確かにそんなことを言った気もするけれど、感動されるようなことを言ったつもりはない。
これはどう反応すればいいんだろう。
助け舟を求めてサクラに視線を移せば、にこりと笑うサクラ。



「桜月はそういうことをナチュラルに言うからね。
本人は何とも思ってなくても、こっちは結構心に響くっていうか」
「あの、……サクラ?」
「言葉だけじゃなくて行動も、かな。
こうしてお弁当作ってくれたり、僕が疲れてるの察してコーヒー淹れてくれたり」
「ちょっ、ちょっとサクラ?!」



突然何を言い出すんだ、この人。
そんなこと、今言わなくてもいいじゃない。
むしろ私本人を目の前にして言わないでほしい。



「あーあー、鴻鳥先生ー!もう惚気はたくさんです!」
「惚気じゃなくて自慢ね」
「いや、それ一緒ですから」
「本当にもう、止めて……恥ずかしすぎ……」



天を仰ぐ下屋先生
ぐったりしている白川先生
恥ずかしすぎて顔を上げられない私

そんな三者三様の反応に目もくれず、ニコニコとした笑顔を崩すことなく箸を進めるサクラ。
この笑顔、絶対にわざとやってる。



「続きはおうちでどうぞ!」
「うーん……僕、今日当直だからなぁ」
「え、お二人は既に同棲中……?!」
「違いますよ?部屋は隣ですけど同棲はしてません」
「部屋が隣……?!」
「偶然なんだけどね」
「でもでも、お互いに部屋の合鍵持ってるんですよね?」
「それは、まぁ……」
「もう半分同棲じゃないですか、羨ましー!
私もこんなお弁当作ってくれる彼女が欲しいー!」



こんなので良ければ今度作りましょうか、と言おうとしたところをサクラに止められた。
何で私の考えていることが分かるのだろう。
というか別にお弁当くらい、いいじゃない。



「ダメだよ、桜月」
「……何でよ。私、まだ何も言ってないじゃない」
「桜月の料理は僕のだから」
「えぇー……」
「ご馳走さまでしたー」
「俺、これ入る隙間ないわ」



いつの間にか食事を済ませた下屋先生、白川先生が呆れたような台詞を残して席を立っていった。
……サクラってこんな感じの人だっけ?



「ねぇ、サクラ」
「うん?」
「何か今日ちょっと変だよ?」
「だって白川先生を牽制しておきたくて」
「……何で?」
「連絡先交換したかったってことは少なからず桜月に好意をもった訳でしょ?
彼氏としては放っておけないよ」
「そういうこと……」



道理で……やけに座っているのに距離が近いわ、笑ってる割に瞳の奥でバチバチしてるわ。
合点が行った。



「そんなことしなくてもいいのに」
「うん?」
「心配しなくても他の人に心移りなんてしないから、大丈夫だよ?」
「信用してない訳じゃないよ、ただ悪い虫がつかないか心配なだけ」
「後輩を虫扱いしないの」



もう、と肩を軽く叩いて視線を絡ませれば一瞬の間の後で同時に吹き出した。
心配性なのは知っているけど、後輩にまで対抗心を燃やすとは。
全く困った彼氏をもったものだ。


*自慢の彼女*
(ご馳走さまでした)
(ねぇ、本当に何か温かい物頼まなくて良かったの?お弁当冷えてたでしょ?)
(あの状況で僕が食べなかったら下屋に取られてたでしょ)
(……別に下屋先生なら良くない?)
(ダメ、桜月の料理は僕の、って言ったよ)
(本気でそれ言ってたんだ……)


fin...


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