コウノドリ

□温もりに包まれて
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珍しく二人のシフトが重なって食事に行くことができた。
プライベートではあるけれど、同じ職場であるが故に話すことと言えば仕事の話ばかり。
これはまぁ、仕方のないこと。
場所と気分を変えるため部屋でコーヒーでも、と店を出て帰宅途中で局地的な集中豪雨に見舞われた。
部屋までの距離を考えると傘を買ったりタクシーを拾ったりするよりも走った方が早いと判断して彼女にジャケットをかぶせて残りの帰路を急いだ。

それでも部屋に着いた頃には二人揃って濡れ鼠。
先にシャワーを浴びてください、という彼女を浴室に押し込んで、とりあえず濡れた衣類を洗濯機に入れる。
彼女の脱いだ服は先に洗濯機に入れてもらってあるのでそのままスイッチオン。
洗濯機にかけてはいけない衣類はないと言っていたし、シャワーと洗濯が終わったら浴室乾燥機にかければいい。

さて、問題は濡れた衣服が乾くまで彼女には何を着てもらおうか。
彼女用の衣類は生憎この部屋にない。
以前、彼女が大怪我をした時にこの部屋で生活したこともあったけれど、完治して彼女が自分の部屋に戻る時に全て持ち帰ってしまった。
置いていっても構わないと話したのだけれども、申し訳ないからとやんわり断られた。
下着だけはマンションに程近いコンビニで帰宅前に買ってきたけれど所謂、部屋着と呼ばれるものは存在しない。
やはりあの時、無理に置いていかせるべきだったか……いやいや、さすがにそれはどうなんだ、と自問自答していれば浴室から申し訳なさそうな声が聞こえてきた。



「サクラさん……すみません、何か服をお借りできますか……?」
「ごめんごめん、ちょっと待ってて」



この際、仕方がない。
クローゼットから未使用のYシャツを取り出して、脱衣所に持って行く。



「ここに置いておくから」
「すみません……」



意図せず浴室のドアに目を向ければ、ぼんやりと彼女のシルエットが浮かび上がっている。
いやいや……何を考えているんだ、僕は。
確かに久しぶりにシフトが同じで、プライベートで一緒に過ごすのは……一週間ぶり?
それにしても、今彼女がシャワーを浴びているのは雨に打たれたからであって、決してそういう……



「ダメだ」



何をどうしてもやましい方向にしか考えが及ばない。
シャワーありがとうございました、お先にお借りしてすみません、と脱衣所から出て来た彼女と入れ替わるように浴室に身体を滑り込ませる。

心頭滅却。






























冷えた身体をシャワーで温めて、ついでに煩悩を流してリビングへ戻る。
シャワーの前、少し肌寒くて薄く暖房を入れたけれど風呂上がりの身体には少し暑く感じる。



「あ、サクラさん。長いからちょっと心配してましたよ」
「ごめんごめん、ちょっと考え事してた」
「もう5分出て来なかったら声かけに行くところでした」
「何だ、じゃあもう少し入ってれば良かったかな」
「もう、サクラさん!」
「アハハッ」



窓際で外を見ていた彼女が振り返って、ふんわりと笑う。
本当に柔らかい表情をするようになったと思う。
欲を言えばその表情を他の男に見せて欲しくはないのだけれども。

それにしても、だ。
自分の、BABY用のYシャツ。
身長差があるにしても丈が彼女の膝上……20cmくらいだろうか。
普段はそんな短い丈の服は身に着けないから尚更白い腿が強調されているように感じてしまう。
袖も相当長いが皺になることを遠慮しているのか捲り上げることはせずに下ろした左手の袖口から指先だけが見える。
窓についていた右手、手首で止まるはずのカフスはその場で留まることができず前腕途中まで落ちてしまっている。
熟知しているはずの体格の差を改めて感じてしまう。

不意にさっきシャワーと一緒に排水溝に流したはずの煩悩がまた顔を覗かせた。
……消え去れ、煩悩。


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