コウノドリ

□伝えたい気持ちは
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彼は冗談のつもりだったかもしれない。
それでも言ったからには実行しないと気が済まない性分なもので。

朝、いつものルーティンでお弁当を作る際にいつもよりも多めに作って二人分にしてみた。
……どのくらい食べるのだろう?
兄以外の男の人にお弁当を作るなんて初めてで要領がよく分からない。
足りないよりは多い方がいいか、と彼のお弁当には気持ち多めに色々詰め込んだ。
いつもつまみ食いされる卵焼き、タコを象ったウインナー、アスパラベーコン、それと彼が大好きな……



「彩り悪いな……。
赤が欲しい……トマト、うん、ミニトマト入れよう」



自分の為のお弁当なら気に留めないけれど人に食べてもらうなら、多少の彩りは気にしたいところ。
料理は得意だと胸を張って言えないけれど、きっと何でも美味しいと言ってくれる、はず。
少し照れくさいけれど、たまにはこういうのも悪くない。































「お昼行ってきまーす」
「あれ、小松さん達は今日食堂ですか?」
「そうなのよー、鴻鳥先生も行く?」
「そうですね、僕も行こうかなぁ」



背後から聞こえてきた何気ない会話に内心焦る。
いつもなら医局でカップ焼きそばの鴻鳥先生が今日に限って食堂に行こうとしている。



「鴻鳥先生……すみません、ちょっとお時間いいですかっ?」
「うん?いいよ、どうした?」
「私ら先に行ってるよ〜」



特に聞きたいことがある訳でもないのに焦って呼び止めてしまった。
こんな言い方でも優しく話を聞く体勢を取ってくれる鴻鳥先生には感謝しかない。
小松さん達が医局が出て行くと室内が静寂に包まれる。



「高宮?」
「あの、」
「うん?」
「……その、」
「何か心配事?それとも患者さんと何かあった?」
「お弁当っ、」
「うん?」



ようやく絞り出した言葉は単語しか出て来なくて、更に首を傾げさせる結果となってしまう。
仕事のことなら何でも口からすらすら出て来るというのに、こういう時はどうしてこうも言葉にならないのだろう。



「お弁当が、どうしたの?」
「作ってきたんです、サクラさんの分も……」
「えっ、僕のも?本当に?」
「ご迷惑でなければ、食べていただけます、か……?」
「勿論。うわぁ……嬉しいよ」



言葉通り、本当に嬉しそうに笑うサクラさんに思わず安堵の溜め息が漏れる。
喜んでくれているようで、良かった。
時計を見ればもう12:30。
早く食べてしまわないと、食堂に行った小松さん達が戻ってきてしまう。
そう考えたのはサクラさんも同じだったようで、時計に目を移した後でにこりと笑いかけられた。



「屋上、行こうか」
「っ、はいっ……」


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