コウノドリ

□ありきたりな
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産科のスタッフステーションに桜月を迎えに行けば既に屋上に行ったと言われて、ちょっと遅くなったよな〜悪いことしたな〜、と屋上へ足を向ける。
だって昼休憩入る直前に部長が急に書類を事務に持って行けとか言うから……!

屋上に出て見回せば探していた同期、とその隣には尊敬する先輩が並んで座っている後ろ姿。
あぁ、鴻鳥先生も一緒だったのか。
待たせちゃったかと思ったけど二人でいるなら逆に私はお邪魔だったかな〜、なんて思う。

いや、それでも今日のお昼に桜月と約束しているのは私だからお邪魔虫だと思われても一緒にご飯を食べるんだ!



「桜月…………っ!!!」



手を挙げて名前を呼んだところで鴻鳥先生の顔が桜月に近づいていって……。

待って待って!ちょっと待って!!
ここ屋上!患者さんも病院スタッフも皆いるから!!!
いくら付き合ってても公衆の面前でそんなキ、キスなんて………!!!
こっちが恥ずかしくなる……!!

一瞬近づいてすぐに離れた二人。
話し声は聞こえないけれど、また普通に会話しながらご飯食べてる。
え、待って。二人にとってそれは日常なの?
ご飯の合間にキスとか普通にあるの?
桜月ってそういうことするの?

頭の中でぐるぐるそんなことばかり考えていたら、こちらに気づいた桜月が首を傾げながら手を上げている。

………気づかれてしまった。
ごめん、別に覗き見するつもりはなかったんだ。
ただ、こんな場所でキスするから……。



「加江、お疲れ様」
「うん……お疲れ……」
「どうした、下屋。また加瀬先生に叱られた?」
「あ、あはは〜」



何でこんなにいつも通りなんだろう。
私に見られたと思っていないから?
それとも二人にしてみれば自然なことで気にすることではないから?
いや、それにしたってこんな場所でキスなんて……。



「………ん?」
「うん?」
「桜月、目が赤いけど……どうしたの?」



まさか……泣いてた?
鴻鳥先生にキスされたのはやっぱり嫌だった?!
そうだよね、こんな……周りに人がいるような場所でキスなんて桜月は嫌だよね?!



「あ、あぁ……さっきちょっと目に睫毛が入っちゃって」
「睫毛……?」



ゴロゴロしてて痛くてね、鴻鳥先生が取ってくれたんだよ、と何てことのないように話す桜月。

……もしかして、さっき二人の顔が近づいていたのは。
え、そういうこと?
私の勘違い?



「……加江?」
「へっ?!」
「食べないの?昼休憩、終わるよ」
「あっ、食べる食べる!」



挙動不審になってしまった。
あぁ、何て勘違いを……。
そうだよね……仕事に真摯に向き合ってる二人が屋上でキスなんてするはずないよね。
有り得ないことだと分かっているのに……もしかしたら、と思ってしまったのは付き合い始めてから、二人が纏う雰囲気が、特に桜月の雰囲気が柔らかくなったから。
恋愛するってこんなにも人を変えるものなんだな、と思ったから。



「はい、もしもし。前野さん破水?分かりました、すぐ行きます」
「前野さん、随分かかってるね」
「破水したので一気に進むかもしれません、私行きますね。
ごめんね、加江。ゆっくり話もできなくて」
「ううん、全然全然。こっちこそ遅くなってごめん」
「また今度ね」



慌ただしく屋上を後にする桜月。
産科医に休みはない、本当にその通りだと思う。
小さくなっていく桜月の背中を目で追いかけながら焼肉弁当の蓋を開けた。


*ありきたりなシチュエーション*
(下屋、さっき勘違いしてただろ)
(え、何のことですか〜……?!)
(高宮は気づいてなかったけどお前、挙動不審だったよ)
(うわ……)
(僕らはこんなところでキスなんてしないから)
(バレバレじゃないですか)
(病院内でするとしたら人目につかないところでするよ)
(えっ、)


fin...


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