コウノドリ

□お誕生日おめでとう
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「ん……」
「おはよう、起きた?」
「サクラさん……おはよ、ございます……」
「声、枯れちゃってるね。水飲む?」



昨夜は彼の部屋にお泊まり。
今日誕生日の彼をお祝いする為に。

本来ならば今夜お泊まりの方が良かったのだけれども、私のシフトは当直になっていて。
前祝いと称して前日に泊まりに来たのだが。



「寝たら少しは良くなってるかと思ったけど……今日はマスクして行こっか」
「は、い……」



仕事終わりに外で食事を済ませて、部屋で飲み直そうとほろ酔い気分で彼の部屋を訪れたまでは良かった。
玄関を入ったところで抱き締められて、息もつけないほどの激しいキス。
酸欠で崩れかけたら抱えられてベッドへ直行。
辛うじて日付が変わった時に『誕生日おめでとうございます』と伝えることができたけれど、正直なところ前後の記憶は、ない。



「どうかした?」
「何で、そんなに元気、なんですか……」
「うーん?満足したから?」



理由になっていません、と思わず反論しようとしたけれど出て来たのは空咳。
すっかり喉をやられてしまったようだ。



「もう一眠りさせたいところだけど、シャワー浴びないと遅刻しちゃうかな」
「うぅ……サクラさんの、ばか……」
「ごめんごめん、今日代わろうか?」
「今日は、ライブが、あるじゃないですか……」



そう、今日はBABYのライブ。
『桜月が当直なら部屋に一人寂しいし賢ちゃんにお願いしちゃった』なんてちょっと可愛いことを言っていた。
とは言え、オンコールなのでもしかしたら途中で退席することになるかもしれないけれど。
原因は彼にあるとしても、ライブ中止してまでシフトを代わってもらうことはしたくない。

シーツを巻きつけてフラフラする足取りで浴室へと向かえば、やけに笑顔のサクラさんに腰を支えられる。



「………?」
「ね、もう一回言って?」
「何を、ですか……?」
「『誕生日おめでとう』って」



聞いてみれば彼にしては珍しいおねだり。
それくらいならいくらでも聞いてあげられる。



「サクラさん、お誕生日おめでとう、ございます」
「うん、ありがと」



心底嬉しそうな笑顔に全てを許してしまいそうになる。
昨夜も切れ切れに伝えれば嬉しそうだったな、なんて思っていたら巻きつけていたシーツをするすると外されていることに気づいた。



「サクラさんっ?!」
「ほら、時間ないからさ。一緒にシャワー浴びよ?」
「駄目ですっ!絶対に嫌!」
「……最近、良い意味で遠慮がなくなってきたよね」



じゃあ先にどうぞ〜、と案外あっさり引いたサクラさん。
時計を確認すれば、確かにのんびりしている時間はなさそうで。
慌てて浴室のドアを開けた。
































「おはようございます」
「おはようございますっ……」
「おはよ〜、鴻鳥先生桜月先生。珍しいね、二人がギリギリなんて」
「アハハ〜」



結局、病院に入ったのは始業10分前。
声が枯れてしまっていることを悟られないようにマスクをして、申し送りの最中は極力黙っていたけれど……どうやら小松さんや真弓さんは何かを察知したようで、やけにニヤニヤしながらこちらに視線を送っていた。
そんな視線は気づかない振りなのか気にしていないのかは分からないけれど、鴻鳥先生はいつも通りの笑顔で『今日もよろしくお願いします』と朝の申し送りを締め括った。

嗚呼、悔しいくらいにいつも通り。昨夜の彼とは大違い。
それを知っているのは私だけ、と言うのは少しだけ胸が暖かくなる。
……もう少し手加減をお願いしたいところではあるけれど。
小さく溜め息を吐いた後でずり下がったマスクを定位置よりも少しだけ上にして、赤くなった頬を隠すように付け直した。


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