コウノドリ

□初めましての気がしない
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朝珍しく時間ギリギリに仕事に向かった彼からメールが一通。
部屋に書類を置いたままにしてしまったから昼に届けて欲しい、と。
了解の旨を返信しておいた。

私が休みで良かったね、と思いつつ彼に指定されたペルソナ総合医療センターの産科スタッフステーションへ……スタッフステーションは、どこ?
周産期医療センターまで来たのはいいが、周りはお腹の大きい妊婦さんや赤ちゃんを連れたお母さんばかりで、気のせいだとは思うけれど正直肩身が狭い。

正面玄関にあった案内板は見てきたものの……大丈夫だろうという楽観的な考えの元、周産期医療センターの場所しか確認して来なかった。困った。
通りかかった病院関係者に詳細を聞くべきか、と手の空いていそうな人はいないかと振り返った。



「何科をお探しですか」
「え、あ……産科のスタッフステーションに行きたいんですけれども……」



某小説の台詞ではないけれど『助けてください!』と誰かに助けを求めようとしたところで眼鏡をかけた、男性医師に声をかけられた。
サクラより少し低いけれど、この人も背が高い。
出鼻を挫かれたものの、男性医師の心遣いに有り難く行き先を告げると小さく溜め息を吐かれた。
何か、ごめんなさい。



「……こちらです」
「え、でも、」
「これから行くところなので、気にしないでください」



コンビニの袋をぶら下げて、スタスタと歩き始める医師。
付いて来い、ということなのだろうか。
道案内させるのは申し訳ないと思いつつ、行き先が同じならばお言葉に甘えさせてもらおう。

それにしても、この人の雰囲気。
彼から聞いていた同期のあの人と何となく重なる。
しまった、ネームプレート見ておけば良かった。



「…………」
「……………」



会話もなく、ただ黙々と歩く。
いや、初対面の人と和気あいあいと話せる程のスキルは持ち合わせていないけれど、前を歩く男性医師からは話しかけるなオーラを感じる。
私、何かしたかな……。



「四宮……と、桜月?」
「サクラ!」



何故か重苦しく感じる空気を打ち破ったのは今日ここに呼び出した本人。
あぁ、良かった。
これでミッションクリア……って今、何て言った?



「……サクラ?」



同じ方向を見ていた男性医師が怪訝そうに彼の名前を呼ぶ。
そこでようやくネームプレートの文字が目に入った。

『四宮 春樹』

あぁ、やっぱり。
私の勘も意外と悪くない。



「あぁ、そういえば二人は初対面だったね」



顔を見合わせていた四宮先生と私の間に立って、ニコニコとした相貌を崩さずにいるサクラ。
何がそんなに楽しいのだろう。



「四宮、僕がお付き合いしてる高宮桜月さん。
桜月、僕の同期の四宮」
「どうも」
「初めまして」



頭を下げれば軽く頭を下げ返される。
端的な紹介ではあるけれど、私も四宮先生のことは話に聞いているし、おそらく四宮先生も私の話は何となく聞かされているのだろう。
以前、先輩の小松さんや後輩の下屋先生にお会いして一緒に飲んだことがあるし、科は違うものの新生児科の白井先生とお会いしたこともある。



「でも、何で二人が一緒に?」
「私が迷ってたら四宮先生が声かけてくれて、ここまで連れて来てくれたの」
「そっか……四宮、ありがと」
「いや……話を聞けば行き先が一緒だったたけだ」



あぁ、話に聞いていた通りの人。
優しいのに不器用で、この雰囲気は患者さんから誤解されるだろうな、とちょっと笑ってしまった。
二人がそれに気づいて、不思議そうに顔を見合わせる。



「やっぱり四宮先生だったんですね」
「やはり、とは」
「人と関わりたくないオーラ出してるのに、何だかんだ放っておけなくて手を出しちゃう不器用な優しい人、ってイメージでした」



思ったことを素直に口にすれば、鳩が豆鉄砲を食ったような表情の二人。
流石は同期、反応が同じと少し感心。
私よりも一緒にいた時間が長い人、きっとたくさんの苦労を二人で乗り越えてきた。
そう思うとちょっと妬ける。
こんなこと言ったら笑われそうだけど。



「サクラ、忘れ物と午後のおやつね」
「あ、うん。わざわざありがとう」
「四宮先生」
「……はい」
「サクラのこと、よろしくお願いしますね。失礼します」



忘れかけていた目的の物をサクラに手渡し、彼の同期に頭を下げてからその場を後にする。
もう少し、四宮先生と話をしてみたかった気もするけれど、常々『産科医に休みはない』と言っている彼らの休憩時間を奪うのも気が引ける。
そのうち時間を設けてもらうのもアリかな、なんて思いながら、散歩がてらのんびり帰路についた。


*初めましての気がしない*
(ねぇ、四宮)
(何だ)
(桜月は僕のだから、好きになっちゃダメだよ)
(……なるか、バカか)
(何で?!あんなに良い子なのに?四宮が実は優しいって一面知ってるんだよ?)
(お前、言ってることが矛盾してるぞ)


fin...


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