コウノドリ2

□つないだ手の温もり
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今日は久しぶりに休みが合って、たまには出かけようと誘われて二駅隣に新しくできたショッピングモールへ行く約束をした。
僕としては彼女がいてくれるなら所謂お部屋デートで構わないのだけれどもそんな話をしたら『毎回お部屋なんて不健康すぎる!それにたまには外に連れ出してくださいって滝さんに言われたから今日は強制的に外出です!』と言い切られてしまった。
多少強引ではあるけれど、彼女なりに色々考えてくれているのはよく分かっている。

ちなみに今は電車で移動中。
彼女は一足先に向かうと言われていた。
同じマンションに住んでいるのだから一緒に出てもいいものだが、せっかく外に出るのだからデートらしく待ち合わせをしたい、と何とも可愛らしい理由を聞かされては断るなんてできない。

電車に揺られること10分。
二駅とは言え、生活圏から少し離れるのは気分転換になる。
駅改札口で待ち合わせ、と言われていたけれどどの辺りにいるだろうか。
そんなことを考えながら改札を出れば、探すことなく彼女の姿が目に飛び込んでくる。



「サクラ」
「お待たせ」
「ん、待ってた」
「そこは『今来たところだから大丈夫』って言うところじゃない?」
「だって先に着いてたのは知ってるでしょ?」
「うーん、まぁ確かに」



そんな他愛もない話をしながら自然と指先が絡み、件のショッピングモールへと足を向ける。
駅前にできた、とは聞いていたけれど本当に駅の目の前。
駅直下型のショッピングモールと言ってもいいだろう。



「今日は何か買うものあるの?」
「んー、可愛い雑貨屋さんがあるって聞いたからまずはそこかな〜」
「あぁ、いつものか」
「いつもの、って言い方〜」
「あれ?違った?」
「違わないけどさ、そんな出かける度に行くみたいな言い方しなくてもいいじゃない」



そう言って少し拗ねたような表情をする桜月。
実際のところ、出かけた先で可愛らしい雑貨屋や文具店を見つけると『ちょっとだけいい?』と立ち寄る確率は非常に高い。
その度に必ずと言っていいほどに可愛らしい付箋やメモ帳、ボールペンなどを手に取って会計に向かう彼女。
仕事用にすると言って買っているのを見て、前に職場からの支給品はないのか聞いたことがあった。

『もちろん備品はあるんだけどね。
可愛いものの方が使ってて楽しいし、ペンなんかは自分が使いやすいものの方が楽なんだよね』

と、いつも病院の備品のペンやメモ帳を使っている僕にはよく分からない世界の話をされた。
彼女の仕事柄、犬や猫などの動物のものや花やハート柄など可愛らしいものの方が好まれるのは何となく分かる。
それなら上に進言してそういうものを備品として購入してもらえば済む話では、とも思ったけれどどうやらそう一筋縄ではいかない世界らしい。

そんな話はどうであれ、小物を選んでいるときの彼女は楽しそうで見ていて微笑ましい。
そう思えばこうして彼女の買い物に付き合うのも悪くない、寧ろこちらまで楽しくなる。



「……私の顔、何か付いてる?」
「うん?大丈夫だよ」
「ならいいけど…………」



物言いたげな表情の彼女に笑顔を返せば、どこか納得していなさそうではあるけれど半ば無理やり納得させたような表情で陳列棚に視線を戻す桜月。
悩んでいた二つの付箋のうちの一つをカゴに入れてレジへと向かう。
どうやら今日は付箋とペンケースを買うらしい。



「ごめんね、お待たせ」
「ペンケース新しくするんだ?」
「うん、ちょっとペンの数が増えちゃったのと今使ってるやつ、中でのりが零れちゃって」
「……それ、どういう状況?」
「あはは……」



会計を済ませた彼女が店の入り口で待っていた僕の元へとやって来た。
しっかりしているようで、たまに抜けているところがある桜月。
きっと慌てて蓋をきちんと閉めずにしまい込んで次に開けてみたらのりでベタベタになっていた、そんなところだろう。



「さて、次はどうしようか」
「サクラ、お腹空いてる?」
「うーん……朝軽く食べて来たけど早めにお昼にしようか」
「休日だからどこも混みそうだもんね」



僕の提案に乗って来た彼女の手を取り、案内板へ向かう。
ショッピングモールだけあってフードコートもレストラン街も両方充実している。
腰を落ち着けて食事をするならレストランの方が良いだろうか。
そんなことを考えていたら、聞き覚えのある声がよく知っている名前を呼んだ気がした。



「あれ、」
「サクラ、どうかした?」
「桜月せんせー!」
「えっ?」



彼女の体が軽く揺れた、と思ったら元気のいい男の子が桜月の名前を呼ぶ。
『せんせー』と呼ぶからには彼女が保育士をしている園のお子さんだろうか、なんて思った。
視線を落とせば、彼女の腰の辺りに抱きついている短い髪の男の子……あれ、この子。

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