コウノドリ2

□朝焼けを二人で
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『今日は女子会なんです』
彼女を知る人間は分かるくらいにはご機嫌な桜月が仕事終わりに小松さんや下屋を始めとする産科メンバーと出かけて行ったのは四時間程前のこと。

『ごめん、飲ませ過ぎたからお迎えよろしく!』
先輩助産師から連絡が入ったのは十五分前。
迎えが必要になるほど飲ませないでください、と苦言を呈しながらも今日はもう会えないと思っていた彼女に会えるなら……とマンションを出て、指定された店、いつもの豚足料理専門店へと足を運んだ。



「あっ、ほら!桜月先生!
鴻鳥先生来てくれたよー!」
「小松さん……そんなに大声出さなくても」
「ん〜……サクラ、さん……?」



カウンターに二人並んで座っていた彼女と先輩。
他のメンバーはどうやら先に帰ったらしい。
まぁ明日も仕事ということを考えれば当然と言えば当然。

……並んで座っている、というよりは最早背骨を無くしてしまったように小松さんに凭れかかっている桜月。
全く、どれだけ飲まされたのか……。



「ごめんごめん、気づいたらこんな状態なっちゃっててさ〜」
「飲ませ過ぎですよ……ほら、桜月?送っていくから帰ろう?」
「は、い……」



肩を軽く叩いてから半ば無理やりに立たせれば、今度はこちらに凭れかかって来る小さな身体。
分かってはいたことだけれども、これは支えなしでは歩けそうもない。
小さく溜め息を吐いてやけにニヤニヤしている先輩に頭を下げてから、身体をすっかり僕に委ねている彼女を引きずるようにして店を出る。



「桜月、歩ける?」
「歩けます〜」



そう言いながらも千鳥足の彼女。
これではいつになったらマンションに着くのか分かったものではない。
仕方がない。
今日何度目かの溜め息の後で桜月の腕を押さえながらゆっくりとしゃがみ込んで彼女を背中に乗せる。
普段ならばこんなこと恥ずかしがって嫌がるところだけれども、アルコールが回っている彼女は何の躊躇いもなく身体をこちらに預けてきた。



「帰ろうか」
「はぁい」



背中越しに聞こえるどこか楽しそうな笑い声。
楽しそうで何より。
殻に閉じ籠っているよりも、たまにこうしてストッパーが外れる方がきっと彼女の心の健康にも良いはず。



「サクラさ〜ん」
「うん?」
「サクラさんは優しいですね〜」
「突然、どうした?」



ふふふ、と楽しそうに笑っていた彼女からの呼びかけに意識を背中の桜月に向ければ、思いもよらない言葉が投げかけられる。
本当に突然だ。
彼女は得てして酔っ払うと普段よりも語彙力が数段下がるし、論理立てて話ができない。
アルコールが回れば誰しもがそうなるとは思うけれど、普段の彼女からは想像もできないほどの支離滅裂な会話になる。



「さっきサクラさんは二人でいる時どんな感じなのか聞かれたんですよ〜。
だからサクラさんは優しいですよ〜って」
「あぁ……なるほど」
「ふふふー、優しいし、カッコいいし……料理できないけどピアノがすっごく上手だし……」
「桜月、?」



アルコールの所為というか、アルコールのお陰というかいつもよりも饒舌で普段ならば絶対に口にしない言葉がすらすらと出てくる。
これはこのまま聞いていてもいいのだろうか。



「赤ちゃんが大好きで……誰よりも赤ちゃんの幸せを願ってて、」
「……それは、桜月だって同じだろ?」
「ふふふ、そうですね〜」



またしても、ふふふ……とご機嫌な笑い声。
これは相当飲まされたらしい。
急性アルコール中毒までは行かないけれど、どうにもいつもよりもタガが外れているように感じる。



「サクラさん?」
「うん?」
「サクラさんは〜、私のどこが好きですか〜?」
「…………、うん?」



これまでの付き合いの中でこんな質問された記憶がない、否あるはずがない。
知っている限りの彼女は自らこんなことを尋ねるタイプではない。
アルコールの力、恐るべし。
そんなことを考えていたら無意識のうちに黙り込んでしまっていたようで背中からどこか不満そうな声が聞こえてきた。

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