コウノドリ2

□朝焼けを二人で
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「サクラさん〜?」
「あぁ、ごめんごめん。
好きなところかぁ……そうだな、一緒にいて気持ちが落ち着くところとか何に対しても真面目なところとか」
「ふふふ、」



私もです〜、と何に対しての同意かは分からないけれど気分が良さそうで何より。
普段、こんなことを口にすれば照れてそっぽを向く彼女がこうも素直に僕の言葉を受け取ることもなかなかない。
いっそのこと思っていても普段言えないことも言ってしまおうか。



「あとは……結構甘え下手で、でも甘えたい時にはソファで並んで座っててそっと近づいてくる時も可愛いよね」
「え〜?」
「頭撫でると幸せそうなところとか、急にキスして恥ずかしがるけど実は嬉しそうとか」
「だって、サクラさんに頭撫でられるの好きですもん。
サクラさんの手、安心するんです〜」



皆には教えない〜、と何故かわざと照れたような口調の桜月。
何だろう、今日はどうしたんだろうか。
彼女がつらつらと僕の好きなところを挙げているのを背中越しに聞きながらそんなことを考えているうちに僕のマンションの前まで到着。
彼女のマンションまでもう五分ほどあるけれど、今日はもうこのまま僕のところに泊まっていってもらおう。
彼女の着替えは僕の部屋にも置いてある。



「ほら、着いたよ」
「んん……ねむい……」
「せめて化粧は落とさないと」
「おみず、のみたい……」
「はいはい……」



マンションの前までひたすらに話していた彼女が部屋に入る頃にはすっかり鳴りを潜めて静かになった、と思ったらソファに転がって今度は睡魔に襲われている模様。
全く、忙しない。
彼女がお泊まり用に、と置いていったメイク落としシートを彼女の掌に出してからキッチンへ向かい、冷蔵庫からミネラルウォーターのペットボトルを取り出す。
あの様子では自分で蓋を開けられないだろうと蓋を緩めながらリビングへと戻れば半分眠りの世界に飛び立っているようで、何とか体を起こしたものの目を閉じながら肌の上にメイク落としシートを滑らせている。



「あぁ……もう一つ」
「何が、ですか……?」
「うん?桜月の好きなところ」



アルコールか睡魔か。
原因は定かでないがとにかくとろん、とした表情でこちらを見上げてくる桜月。
どんな時でも定位置は揺らがないんだな、なんてどうでもいいことが頭を過ぎった。



「僕の前では可愛い姿を見せるところ」
「……?」



メイクを落とし終わって首を傾げながら僕の言葉の続きを待っている。
彼女の手からメイク落としシートを受け取り、代わりに蓋を開けたペットボトルを手渡す。
いつもなら『それくらい自分で捨てます!』と慌てるところだけれども。
とりあえず水飲んで、と促せば素直に水を口に含む。



「何だかんだでさっき、小松さん達の前では頑張ってただろ?」
「だって、」
「それが僕の前ではこんなに可愛い」
「可愛く、ないです」
「あ、ちょっと酔い醒めたみたいだね」
「……ご迷惑をおかけしました……」



どうやら時間経過と共にふわふわした気分も抜けて少し冷静になったらしい。
これはこれで可愛いけれど、もう少しツンデレのデレを味わっておきたかったかなぁ、なんて本人に言ったら顔を真っ赤にして不貞腐れてしまいそうだから黙っておくことにしよう。



「迷惑なんてかけられてないよ?
僕としては可愛い桜月が見られて満足だしね」
「また、そういうことを……」
「さ、明日も仕事だし今日はシャワー浴びて寝ようか。
と言っても僕はもう先に浴びたから桜月シャワーどうぞ?」
「すみません、お借りします……」



酔いが醒めても先程までのことは覚えているようですっかり小さくなっている桜月。
おそらく迎えに行ったり背負って連れて帰ってきたりして迷惑をかけたことへの反省と自分の口から出た数々の言葉への羞恥心でもう何も言えなくなってしまっているんだろう。
それでも明日のことを考えて僕の部屋に置いてある彼女の部屋着を準備するため、ゆっくりと動き出した桜月。
ふ、と小さく笑ってからいつもより小さくなってしまった彼女の身体をそっと腕の中に閉じ込めた。



「サ、サクラさんっ?」
「そんなに恥ずかしがらなくてもいいのに」
「それは、その……恥ずかしいです」
「僕としては嬉しかったけどなぁ。いつもより饒舌で可愛いことを言ってくれて」
「……その件については善処します」
「アハハッ、じゃあ素面でも言ってくれることを楽しみにしてるよ」



顔を真っ赤にしながらも何とか応えようとする姿。
それもまた愛おしい。
しまった。明日も仕事だというのに寝かせてあげられないかも。
今度こそ浴室へと向かっていく彼女の後ろ姿を見送りながら、そんなことを考えていた。
あぁ、もういっそのこと、


*朝焼けを二人で*
(……なんて考えてたんだけど、)
(えぇ……それ、私に選択権あるんですか?)
(桜月が本気で嫌がったら普通に寝るよ)
(……私がサクラさんにされることで本気で嫌がったことってありました?)
(無茶ぶりな先輩命令とか?)
(これが先輩命令なら立派なセクハラです)
(ごめん、セクハラのつもりはない)
(ふふ、分かってます。でも今日は流石に眠いです)
(うーん、だよなぁ)
(でも明日の朝、早く起きて朝焼けを一緒に見るのはお付き合いします)
(……ホント、そういうとこ可愛いよね)

fin...


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