戦国BASAランス書庫

□おにたいじ ★
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「………」

沈黙が、怖い。
人払いのすんだ一室で、元親もその見事な体躯を竦み上がらせていた。
散歩に出たら道に迷い、どこをどう歩いていたのかはもう記憶しようがない。
井戸水で洗い流しただけの細かい切り傷がぴりぴりと痛む。
手足にできた擦過傷は、暗くなる前にはなんとか戻ろうと、城に向かって真っ直ぐ藪を突っ切ってきたためだ。
そういうわけでいそいで帰ってきたのではあるが、それまでに戻ると約束して出た時刻はとうに過ぎていた。

「うー…」

目の前にいるのは、この城の城主である元就。先ほどから無表情で元親を見据えたまま動かない。
恐らく怒っている。静かに、確実に。
口頭で攻められないのが逆に怖い。
かといってその場を逃げ出すわけにもいかず、どうにもならない不安感を胸に、元親は元就と向かい合っていた。

「だから、迷ったって言ってんだろぅ…。悪かったって…」
「………ふん」

元就は元親の何度めかの謝罪に鼻を鳴らして立ち上がり、隅の箪笥を経由して元親の背後へと回りこむ。

「今日は何の日ぞ」
「…いきなり何だよ」

背後に腰を下ろし、元就は背後から元親の体へと腕を回した。

「節分?」
「うむ」

あくまで声質は変わらないが、満足そうに頷いたのが背中ごしに伝わり、髪を撫でられる。
許されたか、と一息ついて元親は体から力を抜いた。



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