BlackBox Laboratory






あなたは己が何者であるか考えたことがあるだろうか。
または何者であるか説明できるだろうか。


あなたを構成する要素が何であるか、他者との違いはなんであるか、自身が存在する理由、存在できる理由、あなたの居場所、いるべき場所を主張できるだろうか。

このような場所に来て、このような文章を真面目に読むあなただから、きっと不確定で不定形、形而上的な自己をお持ちだろう。


悪いことではない。

例え己の正体がわからなかったとしても、捉えられなかったとしても、不安定ですぐにでも拡散してしまいそうだったとしても、それがあなたであることに違いないのだから。
言葉で説明できずとも、あなたはあなたでしかない。
他の誰を真似ようと、どんなに離れようとしても、あなたはあなたから逃れることはできない。


それは呪いでもあるだろう。

あなたはどんなにあなた自身を憎んでいるだろうか。
あなたはどんなにあなた自身を嫌っているだろうか。

こんな自分はいやだ。
自分ではない何者かになりたい。
死んでしまいたい。

と、思ってしまうのも、それはあなたであるから。

辛いと思えるのも、悲しいと思えるのも、紛れもない、その感情の持ち主があなただから。


『みんな苦労している、みんな嫌な思いをしている、みんな辛い』

そんな右に倣う羊の言葉は気にしなくていい。

なぜならば、あなた自身の辛さ、苦しみ、悲しみは、本当のところ、あなたしか理解できないのだから。


だれがあなたの本当の苦痛を理解できよう。
他者の苦しみは本当にあなたの苦しみと同一だろうか。
そんなことはないはずだ。


あなたを救えるのはあなただけだ。
しかしながら、あなただけではあなたを救えはしない。
同じ場所を何度も何度も勘で彷徨い続けるよりは、案内板より現在地を認識することに努めたほうが賢明であることは誰にでもわかる。
これはかつて多くの人間が辿った道なのだ。


この世の中で自身ほど己を理解している者はいないが、自身ほど己の理解に苦しむ者も他にはいない。

己との断絶の壁こそが、この世界においてまず乗り越えるべき壁であり、破壊すべき壁である。

この壁はあまりにも高い。
世界をふたつに大きく隔て、また、認識が困難なほど高い壁であることには十分に留意されたし。


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最終更新日 2021/02/08



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